チークキスとは?その歴史と背景
海外ドラマや映画でおなじみの、頬に軽くキスをする挨拶。「チークキス」と呼ばれるこの文化は、主にヨーロッパや南米で広く親しまれています。
一方、日本では馴染みが薄いため、実際の場面で戸惑うことも少なくありません。この機会にチークキスの意味やルールを学び、実際の場面でスマートに対応できるようになりましょう!
チークキスの歴史・背景
チークキスの習慣は古代ローマ時代に起源を持つと言われています。当時、家族や友人の間で親密さや敬意を示す行為として頬にキスをする習慣がありました。特に社交の場での挨拶や別れの際に、愛情や友情の象徴とされていました。
その後、この習慣がヨーロッパ各地に広がり、それぞれの地域で独自の文化として発展しました。
中世ヨーロッパでは、貴族や上流階級が社交場で使用するエレガントな挨拶として定着し、近代に入ると、特にフランス、イタリア、スペインなどの国々で日常的な挨拶として根付くようになり、一般市民の間でも親しまれるようになりました。
国や地域によってチークキスのルールや回数は異なり、たとえばフランスでは2回から4回、オランダでは3回、スイスの一部では3回など、地域ごとの文化的な違いが見られます。この多様性は、チークキスがそれぞれの国や地域の文化や価値観と融合しながら発展してきた証といえるでしょう。
現代では、チークキスは親しい間柄の挨拶としてだけでなく、フォーマルな場面でも使用されることがあります。特に、チークキスの文化が根強いヨーロッパでは、外交官や高位の政治家の間で、友好的な関係を示す挨拶として行われることがあります。
フランスやイタリアでは、上司・同僚との関係でも、職場やイベントなどフォーマル場面でチークキスが使われることがあります。ただし、これは必ずしも一般的ではなく、握手や言葉だけで挨拶を済ませることも多いです。
一方で、感染症の流行などによってチークキスを控える動きも広がりつつあり、時代の影響を受けながらその役割や方法も変化しています。今回の記事では、もし皆さんがチークキスの挨拶をすることになったら、戸惑わずスマートに対応できるよう、文化的背景、注意点、国による違いなどにスポットライトを当てながらご紹介していきます。
チークキスのマナーは?初対面での注意点
初対面の挨拶でチークキスをする場合、適切なマナーを守ることが大切です。以下のポイントを参考にしてください。
相手の文化を尊重し、自分からリードしない
チークキスの慣習は、人によってさまざま。多くの日本人にとって馴染みのないこの挨拶を、自分からリードすることはあまりおすすめしません。意図せず相手を不快な思いにさせたり、恥ずかしい思いをしないためにも、自分から積極的にリードするのは避けましょう。
初対面の場合、チークキスに慣れている文化圏でも、まずは相手の出方を待つのが安全です。相手がチークキスをする素振りを見せる場合にのみ合わせる方が自然です。初対面では、相手との身体的距離を保ちながら行うことが重要です。親密すぎる動作や近づきすぎる行為は控えめにしましょう。
自然に対応する
チークキスをする場合、頬に軽く触れる程度が一般的です。小さく音を立てることで挨拶の意図を示すことが多いですが、実際に唇を使う必要はありません。回数や順番について深く考えすぎず、相手の流れに身を任せるのがコツです。日本人が相手の文化を尊重しているだけで、その厚意は十分伝わります。
チークキスの回数や順番は、国や地域によって違いがあります。
例えば、
フランス:2回(右頬→左頬)または地域によって3~4回。
イタリアやスペイン:2回(右頬→左頬)。
オランダ:3回(右頬→左頬→右頬)。
回数や順番を間違えてしまうと気まずい雰囲気になる場合があるので、相手に合わせるのが最善です。チークキスの最中は、握手をしたままキープしたり、相手の腕に軽く添えるのが自然でしょう。
相手の文化や状況を尊重する
初対面の場合、相手の文化や習慣を尊重することが重要です。英語圏では握手が一般的であり、チークキスを期待されない場合も多いです。例えば、同じ英語圏でも、ヨーロッパの影響が強いイギリスでは、チークキス文化があるのに対して、アメリカやカナダではハグや握手が主流です。また、アメリカでも、ヒスパニック系、ヨーロッパ系などの人種的背景や地域により慣習が異なる場合があります。
ビジネスの場では控え目に
仕事の場では、握手が最適です。チークキスは親しい間柄のカジュアルな雰囲気なので、仕事の場面では避けるのが無難です。
チークキスを避ける方法
様々な理由からチークキスを避けたい場合は、自ら握手を促すのもひとつの手段です。特に、パンデミック後の国際社会では、感染症への配慮の観点から、衛生観念を優先してチークキスを避ける人も増えています。
フランスとイギリスのチークキスの違い
チークキスの慣習は国によってさまざま。その例を、チークキスの文化が根強いヨーロッパ圏の隣国フランスとイギリスを比較してみましょう。ヨーロッパを代表する大国で、ユーロトンネルという高速列車で約2時間半の隣国でも、これだけの違いがあります。
■フランスのチークキスフランスでチークキスは「ビズ」と呼ばれ、単なる挨拶を超えて、文化や日常生活の象徴とされています。家族や友人だけでなく、場合によっては初対面の相手にも行います。地域によってチークキスの回数が異なり、一般的には2回、そしてなんと場合によっては4回以上行うことも!
フランス人にとって、「ビズ」は生活の一部。それがよくわかるエピソードは、2020年2月、新型コロナウイルスの感染拡大がヨーロッパで深刻化する中、フランス政府は国民に対して、ビズを控えるように呼びかけました。
エマニュエル・マクロン大統領は、「我々はお互いを守るために挨拶の方法を一時的に変える必要がある。」と述べ、握手やビズの代わりに、軽い会釈やジェスチャーを用いることを推奨しました。公衆衛生当局も、ビズが感染拡大の要因となる可能性があるとして強く注意を促しました。
フランス人にとって、ビズは単なる挨拶ではなく、フランス人にとって親密さや友好的な関係を示す行為であるため、「やめる」という選択肢は文化的に大きなハードルを伴いました。しかし、感染症対策の観点から、多くの人が慎重にならざるを得なくなりました。
一部では足先を軽くぶつけ合う「フットシェイク」や肘を合わせる「エルボーバンプ」など、代替方法も取り入れるようになりましたが、長く続くパンデミックによって、ビズができない日常生活に距離感や孤立感を訴える人が増えたそうです。
2021年以降、ワクチン接種が進み、制限が緩和される中で、「ビズを再開すべきか」という議論がフランス社会で巻き起こりました。「再びビズをすることはフランスの文化を取り戻すこと」として積極的に再開する動きが見られた一方で、感染症の再流行への懸念や、パンデミックで定着した新しい挨拶方法への慣れから、以前のように日常的にビズを行わない人々も増えています。フランス人にとって、チークキスは文化であり、日常生活に欠かせない要素であることがよくわかります。
イギリスのチークキス
一方、イギリスはフランスに比べ、チークキスの文化はより限定的で控え目です。主に上流階級の親しい家族や友人の間で行われることが多く、軽く2回頬キスするのが一般的です。フランスのように頻繁ではなく、相手との距離感や場面を考慮した使い方が求められます。
このようなスタイルは、イギリス独自の「控えめなエレガンス」を反映したものであり、初対面やフォーマルな場面ではほとんど見られません。基本的には、握手が一般的な挨拶方法であり、イギリス人の中にもチークキスをする慣習が全くない人もいます。
チークキスと他のあいさつ方法との違い
日本人にはなかなか馴染みのないチークキス。一般的な挨拶方法と比較してみると、チークキスの持つニュアンス・意味を理解することができます。
握手との違い
握手は現代の国際社会で最も一般的な挨拶方法です。ビジネスの場面やプライベートな状況でも、お互いのパーソナルスペースを尊重する挨拶の方法です。一方、チークキスはより近い距離での身体的な接触を伴い、ある程度親しい関係で行われることが多いです。
ハグとの違い
ハグはチークキス以上に親密さを示します。英語圏ではカジュアルな場面で広く受け入れられていますが、ビジネスの場面や初対面ではあまり行われません。
お辞儀との違い
日本文化におけるお辞儀は、敬意を示すための挨拶です。チークキスはその反対で、身体的な接触を伴い、感情的な親しみを表現するものです。非言語コミュニケーションとしての意味合いが大きく異なります。
まとめ
チークキスは、国際的な交流の場ではその文化的背景を理解しておくと役立つ挨拶方法です。特に初対面の場面では、相手の文化や習慣に敏感になることが求められます。また、握手やハグといった他の挨拶方法と使い分けることで、より適切なコミュニケーションが可能になります。
英語を学ぶ過程で、こうした文化的な違いを知ることは、言葉以上に重要なスキルとなります。次回、異文化交流や海外旅行の際に、この記事を参考にして、より良い挨拶を実践してみてください!