海外に渡航する際、「住民票を抜く」かどうかは重要な問題です。
住民票を抜くことで、税金や社会保険、年金などに関する日本国内の手続きを簡素化でき、経済的な負担を軽減することができます。
しかし、住民票を抜くことには一部不便さも伴います。
例えば、日本国内での住所証明が必要な場面や帰国後の手続きの手間などです。
本記事では、住民票を抜く際のメリット・デメリット、手続き方法、判断基準などを詳しく解説し、留学や長期滞在を考える際に役立つ情報をご紹介します。
そもそも「住民票を抜く」とは?
留学やワーキングホリデーなどで海外に渡航する際、住民票をどうするかという問題は多くの人にとって悩ましい問題の一つです。
住民票を「抜く」というのは、実際には海外届を市区町村の住民登録窓口に提出することを指します。
これは、1年以上の長期間海外に滞在する場合に必要となる手続きで、住民票を日本から削除するわけではなく、単にあなたが日本にいないことを正式に知らせる手続きです。
日本国内に居住していないことを行政に伝えることで、その後の税務処理や社会保険、年金などの行政手続きに影響を与えることを避けるための措置となります。
住民票を抜くメリット
1. 税金の負担軽減
海外届を提出すると、税務署に対して「海外に住んでいる」ということが報告されます。
これにより、日本での住民税の課税対象から外れることになります。
留学やワーキングホリデーで海外に行く場合、通常は現地で税金を納めることになりますが、転出届を出さないままでいると、日本に住んでいるとみなされ、住民税が課せられることもあります。
住民票を抜くことで、日本に住んでいないことが明確になり、日本の自治体に対して税金を支払う義務がなくなります。
また、留学先の国で得た収入に対して現地の所得税を支払うことになるため、日本で二重に課税されることを防げます。
日本の住民税や所得税の支払い義務がなくなり、現地での収入に関連する税金だけを支払うことになります。
2. 社会保険料・年金の免除
海外届を出すことで、健康保険や年金など、日本の社会保険制度に対する義務も変わります。
日本を離れている間に現地の健康保険に加入する場合、日本の国民健康保険や年金への加入義務はなくなります。
これにより、経済的な負担を軽減できます。
現地で保険に加入する場合が多く、現地の保険制度を利用することになるので、無駄な保険料を日本で支払うことを避けられます。
また、日本の国民年金に関しても加入義務がなくなりますが、帰国後再加入する場合に、年金の掛け金に関する調整がある場合があるので注意が必要です。
3. 日本の行政手続きの簡素化
海外届を提出することで、日本の各種行政手続きがスムーズになります。
例えば、日本の税務署や年金機構、健康保険の手続きに関して、日本国内に住民票を持っていると、引き続き管理されることがあるため、わずらわしい手続きを避けることができます。
住民票を抜いておけば、帰国後に新たに手続きを行う際に簡単に済ませることができます。
4. 滞納リスクの回避
住民票を残したままにしておくと、日本国内の税金や社会保険料が引き続き発生する可能性があります。
例えば、海外に住んでいるにも関わらず、住民税や健康保険料などの支払い義務が残ってしまい、滞納すると後々問題が発生します。
住民票を抜くことで、こうした支払い義務から解放され、滞納リスクを避けることができます。
5. 住所変更の手間が減る
長期留学する場合、住民票を抜いておくことで住所変更の手続きが不要になります。
例えば、留学先で転居した場合や、帰国時に再度住所登録を行う場合、住民票を抜いておけば、日本の住民登録と無関係であるため、日本での住所変更の手続きを省略でき、海外での生活に集中できます。
住民票を抜くことは、留学中の生活をスムーズにし、経済的な負担を軽減し、帰国後の手続きも簡便にします。
留学に行く前に住民票を抜くことで、長期的な管理の手間が省けるだけでなく、税金や社会保険の支払いからも解放されるため、非常に有利な選択となります。
住民票を抜くデメリット
住民票を抜くことには多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。
特に、日本国内での手続きや住所証明が必要になる場面では、住民票を抜くことで不便を感じることがあります。
以下に、そのデメリットをさらに詳しく説明します。
1. 日本の住所証明が必要な場面で不便
住民票を抜くと、日本国内で住所を証明する書類(住民票や運転免許証、マイナンバーなど)が使用できなくなります。
例えば、帰国後に再度日本での住所を登録する必要があり、その手続きには時間がかかる場合があります。
また、以下のような場合には、日本に住所があることを証明しなければならず、手間が増えます。
・銀行口座の住所変更:日本の銀行口座の住所を変更する場合、住民票を必要とすることがあります。
住民票を抜いていると、住所証明書類として別の書類を提出しなければならないため、手続きが複雑になることがあります。
・その他の手続き:例えば、日本のクレジットカードの住所変更や携帯電話の契約、特定の行政サービスを利用する際にも住所証明が必要になる場合があり、その際に住民票がないと手続きが面倒になります。
2. 社会保険・年金の再加入が必要
海外届を提出することで、日本の社会保険や年金から外れることになります。
年金の掛け金や健康保険が免除される一方で、帰国後に再加入する手続きが必要になります。
特に、年金に関しては、加入期間に空白ができるため、将来の年金額に影響を与える可能性があります。
・年金の再加入:日本に帰国後、年金に再加入するためには、過去の年金の支払状況を整理し、手続きを行う必要があります。
この手続きは、場合によっては時間や労力がかかることがあります。
また、障害年金は年金受給世代でなくても受け取ることができ、加入していれば留学中の事故や怪我にも対応できる場合があります。
しかし、住民票を抜くと国民年金の対象外となり、障害基礎年金などの受給資格も失われてしまいます。
さらに、年金の支払いを長期間行わないと、将来的に受け取れる年金額が減少する可能性があるため、注意が必要です。
・健康保険の再加入:同様に、日本の健康保険に再加入する際にも、手続きが必要です。
海外にいた間に保険に加入していた場合、その間の保険料の扱いや、日本に戻った時に再加入する手続きに関しても注意が必要です。
3. 一時帰国時の手続きの再開
住民票を抜いた状態で一時帰国すると、再度住民登録を行う必要があります。
これは、時間がかかるだけでなく、住民票を復活させるために市区町村役場で新たな手続きを行う必要があります。
・一時帰国時の住民票の復活:一時帰国の際に住民票を復活させるには、帰国後に住民票の登録手続きを行う必要があります。
これには役場での手続きが必要で、長期で滞在していた場合、その手続きに時間がかかることがあります。
・日本の住所証明の取得:一時帰国中に日本の住所を証明する必要がある場合、住民票を復活させるまで証明ができないため、その都度新たに手続きをしなければなりません。
これが手間に感じることもあります。
4. 日本国内での身分証明書の更新ができない
住民票を抜くと、日本の身分証明書(例えば、運転免許証やマイナンバー)の更新手続きが難しくなります。
特に運転免許証の更新には、住民票が必要となるため、事前に住所変更や更新手続きを行っておかないと、帰国後に再度免許証の更新手続きが必要になります。
・運転免許証の更新:住民票を抜いていると、運転免許証の更新の際に必要な住所証明書類が不足し、更新手続きが面倒になることがあります。
もし運転免許証を更新しなければならない場合、住民票を抜いていると新たに住所証明を取得する手間が生じる可能性があります。
・身分証明書の代替手続き:運転免許証をはじめとする身分証明書の更新や取得が困難になるため、必要な場合には、別の手続きで身分証明を行う方法を考慮しなければなりません。
住民票を抜くことには、税金や社会保険料の免除、行政手続きの簡素化といったメリットがありますが、その一方で、住所証明が必要な場面で不便や手間が生じることがあります。
特に、帰国時の手続きや一時帰国時の住所証明、社会保険や年金の再加入手続きに関しては、注意が必要です。
留学やワーキングホリデーの期間や帰国予定に応じて、どちらの選択が自分にとって最適かを事前に考え、必要な手続きを調べておくことが重要です。
住民票を抜く・残すかどうかの判断基準
住民票を抜く際のメリット・デメリットについて説明しましたが、実際にどのようなケースで海外届を提出すべきかについての判断基準を見ていきましょう。
1. 留学期間
滞在期間が最も重要な判断基準です。
短期・中期留学(3ヶ月〜半年程度)であれば、住民票を抜く必要はほとんどありません。
しかし、自治体によっては1年未満でも海外届が必要な場合がありますので、お住まいの自治体に事前に確認することが重要です。
1年を超える長期留学や移住の場合は、海外届が必須となり、渡航日の14日前から自治体の窓口で手続きを行う必要があります。
2. 留学時の状況
留学中の状況に応じて、住民票を抜くかどうかが変わります。
・学生の場合
親の扶養に入っている学生の場合、親の健康保険や社会保険に加入しており、厚生年金や健康保険料、住民税などは親の所得から天引きされるため、個人で支払う必要がありません。
このため、住民票を抜くメリットは少なく、通常は残しておくことが一般的です。
・休職制度を利用して留学する社会人の場合
会社に所属している社会人が休職制度を利用して留学する場合、基本的には住民票を抜くことはできません。
会社の社会保険や厚生年金の対象となるため、国内に居住していることが前提とされています。
休職期間中に社会保険・厚生年金の支払いが停止した際も、国民年金の支払いは続く点に注意が必要です。
・退職後に留学する場合
退職後に留学する際は、会社の社会保険を外れた後は国民健康保険や国民年金に加入することになります。
この場合、住民票を抜くことが可能です。
以上の基準を踏まえて、留学期間や自身の状況に応じて住民票を残すか、抜くかを判断しましょう。
住民票を抜く方法・必要書類
留学前に住民票を抜くためには、お住いの自治体に「海外届」を提出する必要があります。
海外届は、本人または家族などの代理人が提出できますが、提出者によって必要書類が異なるため、事前に確認しておくことが重要です。
1.必要書類
・本人確認書類
運転免許証、マイナンバーカード、パスポート、住民基本台帳カードなど、本人確認ができる書類が必要です。
・マイナンバーカード
住民票を抜く際、マイナンバーカードは無効にする手続きを行います。
帰国後に再申請する際に必要となるため、無効になったマイナンバーカードは、処分せずに手元に保管しておくようにしましょう。
2.手続きのタイミング
海外届は、出国予定日の14日前から前日までに提出する必要があります。
出国日が決まり次第、早めに手続きを行いましょう。
留学や長期滞在の際は、手続きや必要書類を忘れずに準備し、スムーズに進めるようにしましょう。
まとめ
住民票を抜くことは、留学や長期滞在中に税金や社会保険の負担を減らし、行政手続きの簡素化を図る有効な方法です。
特に、住民税や年金、健康保険に関する費用を免除でき、現地での生活に集中することができます。
しかし、住所証明が必要な場合や、社会保険や年金の再加入が求められる場合など、帰国後に手間がかかることもあります。
住民票を抜くかどうかは、留学期間や自身の状況によって判断し、事前にしっかりと手続きを確認しておくことが大切です。