日本でもアメリカでも飲酒運転は禁止されていますが、
日本では道路交通法違反、
アメリカでは刑事法違反
と根拠となる法律が異なります。
アメリカの方が厳しい罰則が設けられているのですが、その背景や詳細を解説していきます。
アメリカの飲酒運転について
●アメリカでは飲酒運転による死者が多い
NHTSA(National Highway Traffic Safety Administration=国家幹線道路交通安全局)が発表したデータによると、2022年の全米の飲酒運転死者は約1万3500人に上り、増加傾向にあります。
一方、警察庁が発表したデータによると、日本では同じ2022年で112件と、人数と件数の違いがあるため、一概に比較はできないのですが、人口の割合から見るとアメリカの方が圧倒的に重大な事故が多いことが分かります。
●新型コロナも死者数増の一因になっていた!?
アメリカでは飲酒運転のことを、DUI(Driving Under the Influence)と言います。
直訳すると「影響下での運転」、つまりアルコールの影響で正常な運転ができない状態にあったという捉え方をしています。
アメリカでも酒酔い運転を取り締まる検問は実施されていますが、2020年からの新型コロナウイルス感染拡大により、警察が運転者との接触を避けるためにある程度の交通違反は見逃されてしまったことで、飲酒運転の摘発件数が減っていたということも背景にあったと言われています。
アメリカの飲酒運転基準とは
●日本とアメリカの比較
日本では飲酒運転となる血中アルコール濃度の基準は0.03mg/l以上ですが、
アメリカでは0.08mg/l以上です。
数値だけをみるとアメリカの方が緩い基準という印象を受けますが、日本では交通違反としての罰則を受けるのは0.15g/l以上であるため、アメリカの方が厳しくなっています。
しかし州によっては必ずしも0.08g/lとは限らずより低い基準の州もあり、また商用ドライバーはより低い基準が定められていることがあります。
●具体的な罰則の内容
日本では0.15g/l以上を酒気帯び運転と定義し、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に、呂律が回らない、あるいはまっすぐ歩けないような状態で運転した場合は酒酔い運転と定義され、
アルコール濃度は関係なく、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。
アメリカでは罰金の金額や懲役刑の期間は州によって、あるいは初犯であるか等によっても異なりますが、いずれにしても
刑事罰を受けるという点で
日本よりも厳しい部分があります。
飲酒運転による罰則と影響
●飲酒運転をしてしまったらどうなる!?
アメリカで呼気検査を受け、飲酒運転の基準値を上回る数値が検出されてしまった場合のおおまかな流れですが、乗っていた車は押収、すぐに警察署に連行されます。
そこで指紋採取と写真撮影が行われ、全米犯罪者データベース(NCIC: National Crime Information Center)に登録されてしまいます。
全米犯罪者データベースに登録されると、アメリカ全土に犯罪者として情報が共有されてしまい、以後のアメリカビザ申請には大きな影響が出ることになります。
初犯であっても、罰金、免許停止、保護観察、DUIプログラム、自助グループへの参加、は免れられないのが一般的です。
罰金については
1,000ドルを超える場合もあり、支払えない場合はコミュニティ・サービス(路上のゴミ拾いなど)で代えることになります。
かといって、警察官に停止を求められたにもかかわらずアルコール検査を拒否してしまうといずれにしても免許停止となってしまうため、必ず指示に従う必要があります。
●「アルコール・インターロック」について
アメリカでは飲酒運転の前歴者が保釈された直後に再び当時13歳だった少女を飲酒運転でひき逃げし死亡させたという痛ましい事故をきっかけとし、
1990年代から、
「アルコール・インターロック」
が普及しています。
これは過去に飲酒運転をした人を対象とした「アルコール・インターロック装置」というエンジン始動時にドライバーの呼気中のアルコール濃度を計測し、規定値を超える場合には始動できないようにする装置がついた車しか運転できないシステムを指しています。
「アルコール・インターロック限定免許」を持っている人は、装置が装着されていない車を運転すると、無免許運転となり罰を受けます。
そもそも一定期間でも運転できないような仕組みを作ればよいのではと思いますが、アメリカが車社会で公共交通機関がない地域が多く、運転免許を取り上られない場合もあり、救済措置として考えられた方策とも言われます。
日本でも検討は進められているもののなかなか普及が進まない一方で、アメリカではほぼ全州で何らかの法制化がされています。
なぜ飲酒運転が厳しいのか
●アメリカにおける飲酒の歴史
アメリカでは1920年から1933年まで禁酒法が制定されており、アメリカ全土でアルコールの製造、販売、輸送を全面的に禁止されていました。
薬物と同じような扱いをしていたわけですが、短期間で廃止になってしまった理由として、密輸が相次ぎ、取り締まりは困難であり、一般人でも結局飲酒をしていたという実態がありました。
禁酒法の廃止以降、それぞれの州が各自で飲酒年齢を定めていきましたが、1970年〜75年に多くの州で飲酒可能年齢を21歳から18歳に引き下げました。
しかし、結果として若年層の飲酒運転が増えたために、レーガン大統領の時代から飲酒年齢を21歳に引き上げる取組みが進められました。
飲酒運転は州ではなく国全体の問題であるという声が、先ほども挙げたような飲酒運転によって命を落とした方の遺族等からも高まりましたが、なかなか意見統一には時間を要しました。
これはアメリカでは州の独自性を認めており、国がすべての州に一律で基準を設けることが一般的でないためですが、ようやく1988年にすべての州で飲酒年齢が21歳に引き上げられることになりました。
それでも車社会であるアメリカでは飲酒運転がなかなか減ることはありません。
●再犯防止に向けた取り組み
再犯防止のために飲酒運転への罰則は厳しくなっていますが、それに加えて酒との付き合い方、つまり飲酒ルールの教育も日本以上に厳しく行われます。
これは飲酒運転の背景にアルコール依存等の問題があるという認識を元にしており、必要がある人は治療につなげる形で、教育と治療を組み合わせた
「DUIプログラム」
というシステムが作られました。
●DUIプログラムとは
このプログラムの内容や特徴を以下に挙げます。
・すべての費用を違反者が負担する。
・修了は裁判所からの命令であり、修了するまでは免許の再交付が受けられない。
・NPOがガイドラインに沿ってグループワークや個人カウンセリングを実施する。
・カウンセラーは依存症から回復した人が多く、自身の体験を交えた講座となる。
・参加期間は禁酒を誓約する必要があり、アルコールについて学び、自身の飲酒行動を振り返り、被害者の体験談を聞く会に参加する等の行動を通じ、節酒や断酒に向けた取り組みを行う。
日本にもアルコール依存症の方を対象にした公的機関、医療機関、自助グループ・リハビリ施設はありますが、裁判所がその中心にあるという点で特徴的であると思います。
ビール一杯での運転について
●飲酒量とアルコール血中濃度の関係
ビール一杯での運転がどの程度危険であるかを確認するため、まずは飲酒量からアルコール血中濃度を求める式をみてみましょう。
アルコール血中濃度(%)=飲酒量(ml)×アルコール度数(%)/833×体重(kg)
例えば、体重50kgの人がアルコール度数5%のビールを500ml飲んだ場合、血中濃度は2,500(500×5)÷41,650(833×50)となり、およそ0.06%となります。
先ほど挙げました基準値で0.03g/lはかなり低い基準であり、0.08g/lも決して高い基準ではありません。
このアルコール血中濃度の計算を簡単に行えるサイトはたくさんありますが、体重だけではなく体質、またその日の体調によっても実際の数値は異なりますし、最近では日本でも簡易的なアルコールチェッカーがありますが、機器によっても数値が異なることはよくあります。
●アメリカ人の一般的な認識に合わせては危険
日本人はアセトアルデヒドを分解する酵素を持たない人、つまりお酒が苦手な人が多いということが科学的にも示されていますが、私たちのイメージと同様に、アメリカ人はお酒が強いと自認している人が多く、ビール一杯くらいなら大丈夫と認識している人が多いようです。
アメリカでは16歳以上で運転できるのに対し飲酒年齢は21歳以上であり、21歳未満の場合はこの基準はさらに厳しくなります。
たとえば日本の大学生がアメリカ留学中に飲酒運転をして逮捕されれば、アメリカ大使館又は領事館からビザ取り消しの報告を受けることになります。
加えて、拘置所から出るために保釈金が必要になったり、弁護士を自分で用意して裁判を受けたり、と時間的にも経済的にも大きな負担がかかります。
周囲のアメリカ人が飲酒に対して軽い認識を持っているからといって迎合せず、特に留学でアメリカに行く方は飲酒の怖さを肝に銘じておく必要があります。
まとめ
アメリカでの飲酒運転について、日本とアメリカでの違いを含めて解説してきました。
日本の感覚ではコンビニ等ではあまり厳しく確認されない身分証も、アメリカでは購入時には提示が必須です。
飲酒運転だけではなく、公共の場での飲酒も禁止されています。
日本でも昔は電車内で飲酒する人を多く見かけましたがだいぶ減っていますが、禁止というわけではありません。
留学や旅行、様々な目的でアメリカに渡航する方がいると思いますが、飲酒に関するルールの違いをすべて頭に入れておく必要まではありません。
重要なのは、
飲酒運転は世界共通で禁止ということです。
ちなみに、ここでは日本とアメリカを例に挙げてきましたが、世界の中にはさらに基準が厳しい国も緩い国もあります。
興味のある方はぜひ調べてみると面白いですよ。