
留学というと学生のイメージが強いかもしれませんが、社会人の海外留学も珍しいものではなくなってきています。
キャリアアップや語学力の向上、異文化体験など、その目的はさまざまですが、留学を成功させるためには入念な準備が欠かせません。 特に社会人の場合、在職中の収入に関連する税金や社会保険料の取り扱いは、留学期間中の生活設計に大きく影響します。
この記事では、社会人が海外留学する際に直面する税金関連の課題について、住民税や国民年金の手続きに焦点を当て、実務的な観点から詳しく解説します。
- 留学前に知るべき税金の基本と納税義務
- 休職・退職時の税務・社会保険手続き
- 住民票と海外転出届の提出による影響
- 住民税と所得税の具体的な手続きと納付方法
- 国民健康保険と国民年金:任意加入と追納の検討
- まとめ
留学前に知るべき税金の基本と納税義務
海外留学を決意した社会人が最も頭を悩ませるのは、税金の取り扱いです。
また、手続きに期限が設けられているものもあるため、出発直前になって慌てないよう、早めの準備をおすすめします。実際の留学準備では、税金関連の手続きは後回しにされがちです。語学試験の準備や留学先の選定、ビザの取得など、目に見える準備に時間を取られ、税務手続きについては出発間際まで放置してしまうケースも少なくありません。しかし、そうした状況は後で大きな問題を引き起こすことにもなりかねません。日本にいるうちにできることは済ませておきましょう。
留学中の税金の支払い義務:居住者と非居住者の違い
留学期間中の税金の支払い義務は、留学期間の長さ、海外転出届の提出有無、日本での収入状況、留学先での収入の有無などによって変わります。
特に重要なのは、「留学期間が1年を超えるかどうか」という点です。 1年以上の留学を予定している場合、税務上の居住者区分が非居住者に変更される可能性があります。 非居住者となった場合、原則として日本国内源泉所得にのみ課税されますが、これにはさまざまな条件や例外規定があります。
例えば、日本企業から給与を受け取っていても、実際の勤務を海外で行っている場合は、その給与は原則として「国外源泉所得」となり、日本では課税対象外です。ただし、日本国内での勤務部分や役員報酬など、一部は国内源泉所得として課税される場合もあります。
また、日本国内に家族が残り、生計を一にしている場合は、居住者として扱われる可能性もあります。 留学先の国との租税条約も考慮する必要があります。 日本は多くの国と租税条約を締結しており、二重課税を防止する仕組みが設けられています。ただし、条約の内容は国によって異なるため、留学先の国との租税条約についても事前に確認しましょう。
休職・退職時の税務・社会保険手続き
留学に際して、会社を休職するか退職するかによっても、税金面で違いが生じます。 休職の場合、給与所得者としての地位が継続するため、所得税や住民税の取り扱いが退職とは異なります。
休職の場合の税務・社会保険手続き
休職中の給与支給がない場合でも、前年の所得に基づく住民税の支払い義務は残ります。
これは、住民税が前年の所得に基づいて課税される仕組みになっているためです。 例えば、年収500万円であった方が翌年に休職して留学する場合、無収入期間中であっても、前年の所得に基づく住民税(年額で約25万円程度)の支払いが必要です。 また、社会保険料の負担方法についても、会社との協議が必要です。 多くの企業では、休職期間中の保険料を一括で支払うか、毎月の支払いを継続するかの選択肢を用意しています。
一括支払いの場合、まとまった金額を用意する必要がありますが、留学中の手続きが簡略化されるというメリットがあります。さらに、休職期間中の健康保険の扱いについても確認しておきましょう。 企業の健康保険に継続加入できる場合は、海外での医療費の一部が給付される可能性もありますが、保険料の負担は継続します。
退職の場合の税務・社会保険手続き
退職をした場合は、退職所得の確定申告や年末調整などの手続きが必要です。
退職金が発生する場合は、その課税方法についても理解しておきましょう。退職金は「退職所得控除」という特別な控除が適用され、通常の給与所得とは異なる課税方法が適用されます。 退職後は健康保険や年金の手続きも個人で行う必要があります。 国民健康保険への加入や、国民年金の取り扱いについても事前に検討が必要です。 特に海外転出届を提出する場合は、これらの社会保険制度からいったん離脱することになるため、帰国後の再加入手続きについても把握しておくべきです。
住民票と海外転出届の提出による影響
海外留学に際して最も重要な手続きが、住民票の異動と海外転出届の提出です。 この手続きは、税金や社会保険料の支払い義務に直接的な影響を与えます。
海外転出届は、出国予定日の2週間前から申請が可能です。 届出の際には、パスポートや航空券の写しなど、渡航を証明する書類が必要です。転出先の住所が決まっていない場合でも、国名と都市名程度の情報があれば受理されます。 海外転出届を提出することで、住民税や国民健康保険料の支払い義務がなくなるというメリットがあります。 ただし、これは翌年度以降の課税に関する話であり、既に課税されている住民税については、原則として全額を納付しなければなりません。
一方、日本の公的医療保険制度を利用できなくなるというデメリットもあります。また、国民年金の支払いも任意加入となります。 これらのメリット・デメリットを考慮した上で、海外転出届の提出を判断してください。 特に留学期間が1年未満の場合は、海外転出届の提出が受理されない可能性もあります。 これは、住民基本台帳法上、1年以上の海外滞在が見込まれる場合に転出届が受理されるという解釈に基づいています。ただし、この「1年以上」という基準は厳密なものではなく、市区町村によって運用が異なる場合もあります。
住民税と所得税の具体的な手続きと納付方法
まずは、住民税から見ていきましょう。
住民税は前年の所得に基づいて課税されるため、留学中は無収入であっても、前年度の収入に応じた住民税を支払う必要があります。住民税が「前年の所得に対する課税」だからです。
例えば、2025年1月から留学を開始する場合、2024年中の所得に対する住民税は2025年6月から2026年5月にかけて納付する必要があります。ただし、海外転出届を提出し、2026年1月1日時点で日本国内に住所を有していない場合は、2025年の所得に対する住民税(2026年度分)は課税されません。 住民税の納付方法については、給与からの特別徴収が一般的ですが、普通徴収(個人での納付)に切り替えることも可能です。特別徴収の場合、退職時に残りの住民税を一括徴収されることがありますので、注意が必要です。
次は、所得税です。
所得税については、確定申告の時期や方法が留学期間によって異なります。1年以上の留学で非居住者になる場合は、日本国内に「納税管理人」を選任することで、出国後も通常の期限で確定申告・納付が可能です。納税管理人を選任しない場合は、出国までに確定申告と納付を済ませる必要があります。
また、1億円超の金融資産を保有している場合は「国外転出時課税(Exit Tax)」の対象となるため、別途申告手続きが必要です。出国までの所得については、出国時点で確定申告を行い、年末調整に相当する手続きを済ませる必要があります。 これは、出国後に確定申告の機会がなくなるため、出国日までの所得を日本で精算するための手続きです。
また、出国後の所得に対する課税関係の整理も必要です。 日本企業から給与を受け取り続ける場合や、日本国内に資産がある場合は、非居住者となった後の課税関係について、税務署に確認することをおすすめします。 一方、1年未満の留学の場合は、通常の確定申告期間に申告できます。ただし、留学中の海外所得がある場合は、為替レートの換算など、追加の手続きが必要となる場合があります。
国民健康保険と国民年金:任意加入と追納の検討
税金のほかに、留学中の社会保険の扱いも重要なポイントです。ここでは、海外渡航時に見落とされがちな国民健康保険と国民年金の手続きについて解説します。
国民健康保険の扱い
国民健康保険については、海外転出届の提出有無によって取り扱いが大きく異なります。
海外転出届を提出すると国民健康保険の資格はなくなりますが、提出しない場合は保険料の支払い義務が継続します。 国民健康保険に継続加入するメリットとして、海外での医療費の一部が給付される可能性があります。
ただし、この給付は日本の医療費を基準に計算されるため、医療費の高額な国(特にアメリカなど)では、実質的な補償額は限定的です。 このため、多くの留学生は民間の海外留学保険に加入することを選択します。 海外留学保険は、現地の医療費水準に応じた補償が設定されており、より実態に即した補償を得られます。ただし、保険料は決して安くないため、補償内容と保険料のバランスを考慮して選択しましょう。 海外留学保険に加入する場合は、以下の点に特に注意が必要です。
・既往症の取り扱い
・歯科治療の補償有無
・緊急時の搬送費用の補償
・賠償責任保険の範囲
・保険期間の延長可能性
国民年金の任意加入と追納
国民年金については、将来の年金受給権に関わる判断が必要です。
基本的には、任意加入による継続か、支払い免除制度の利用かのどちらかとなります。 任意加入を選択した場合、将来の年金受給額を維持でき、また障害年金や遺族年金の受給権も確保できます。ただし、毎月の保険料負担は継続します。保険料の支払いについては、口座振替や家族による納付など、複数の方法が用意されています。
なお、学生納付特例制度は日本国内に住所を持つ学生が対象であり、海外転出届を提出して住民票を抜いた場合は適用されません。この場合は任意加入制度を利用して継続的に納付するか、帰国後に追納(10年以内)する方法を選びます。この場合、将来的な追納が可能であり、また受給資格期間にもカウントされます。
ただし、追納しない場合は、その期間分の年金額が減額されることになります。 追納は、猶予された期間の翌年度から10年以内であれば可能です(参照:日本年金機構)。ただし、3年目以降は、当時の保険料に一定の加算額が上乗せされます。このため、経済的に余裕がある場合は、できるだけ早く追納することをおすすめします。
まとめ
社会人の海外留学における税金関連の手続きは一見複雑に思えますが、計画的に準備を進めることで対応できます。 重要なのは、早期の情報収集と関係機関への事前相談です。漏れがないよう、留学前には日本の税金システムについて勉強しておくと安心です。
◇経歴
英語科高校卒
外国語学部英米学科卒
学習塾で英語を教えている
◇資格
・IELTS6.5
◇留学経験
イングランドのオックスフォードのOxford English Centreに3週間の語学留学と、スコットランドのエディンバラのUniversity of Edinburghに1年間の交換留学をしていました。
◇海外渡航経験
高校時代にオックスフォードの語学学校へ留学
大学時代にエディンバラ大学へ1年交換留学
◇自己紹介
ハリー・ポッターがきっかけで英語に目覚め、高校・大学とイギリスに留学したイギリスマニア。学校はアメリカ英語なので自己流でイギリス英語を習得。発音、スペル、すべてにおいてクイーンズ・イングリッシュを使い英語の先生にバツをくらうもめげず。生まれも育ちも日本で、海外に繋がりがなかったため留学が夢となった。アルバイトで全資金を稼ぎ渡英すると、勝手な高い理想を上回るほどの素晴らしさを目の当たりにし更に虜に。