シンガポールのGST(Goods and Services Tax)は、商品の販売やサービスの提供に対して課税される税金です。
日本の消費税と似た仕組みですが、シンガポール独自の税率や登録制度が存在します。
GSTの適用を受けるのは、一定の売上規模を持つ事業者に限定されており、そのための登録が義務付けられる場合があります。
この記事では、シンガポールにおけるGSTの基本的な仕組みや、どのような取引が課税対象となるのか、登録が免除される条件について詳しく解説します。
またGSTに関する内容は、シンガポール内国歳入庁(IRAS)のウェブサイトを参考にして解説しています。
最新の税率や法改正については、IRASの公式ウェブサイトでご参照ください。
シンガポールのGSTとは?
シンガポールのGSTは、商品やサービスの取引に対して課される消費税で、現在の税率は9%です。
シンガポール国内でほぼすべての商品とサービスの取引に広く適用されています。
また、商品の輸入にもGSTが課せられ(シンガポール税関が徴収)、他の国で言われる「付加価値税(VAT)」と同様の仕組みです。
GSTの税率
年度 | GST税率 |
1994年4月1日~2002年12月31日 | 3% |
2003年1月1日~2003年12月31日 | 4% |
2004年1月1日~2007年6月30日 | 5% |
2007年7月1日~2022年12月31日 | 7% |
2023年1月1日~2023年12月31日 | 8% |
2024年1月1日~ | 9% |
参考 : IRAS”Prevailing GST rate”
シンガポールのGSTは2024年1月1日から9%になっています。
GST登録を行っている事業者は、シンガポール国内での商品販売やサービスの提供に対して、適切に申告する義務があります。
ただし、取引がゼロ税率適用または免税の対象となる場合には、GSTは課税されません。
シンガポールがGSTを導入した理由
シンガポールは、1994年4月1日にGSTを導入しました。
これは国の税収源を直接税(企業や個人の所得に対して課税する税)から間接税(消費に対して課税する税)にシフトすることが目的でした。
これによって、シンガポールは企業や個人の負担を軽減しながら、安定した税収を確保できるようになりました。
また、GSTの導入により、シンガポールは所得税率を低く保つことができています。
GSTは消費に対する税であり、所得に対する税ではないため、貯蓄や投資を促進する効果もあります。
シンガポールGST登録制度の概要
シンガポールのGST登録制度では、売上高が基準日を超える事業者に登録を義務付けています。
基準は年間100万シンガポールドルの売上高で、これを超えると登録が必要となります。
登録すると、消費税の還付を受けることができます。
GST登録の義務
次のいずれかに該当する場合は、GST(消費税)の登録が義務付けられています。
・過去12ヶ月間の売上高が100万シンガポールドルを超えた場合 : 前年度末時点での売上高が100万シンガポールドルを超えた場合、翌年1月30日までにGST登録を行う必要があります。
登録は3月1日から有効になります。
・将来の売上が100万シンガポールドルを超える見込みの場合 : 次の12ヶ月間の売上高が100万シンガポールドルを超えると予測される場合も、GST登録が必要です。
任意登録
売上高が基準を超えていない場合でも、任意でGSTに登録することが可能です。
任意登録を行う場合、消費税還付などの利点があります。
逆課税制度(Reverse Charge)と海外事業者登録(Overseas Vendor Registration)
逆課税制度に該当する場合は、GST登録が必要です。
これにはシンガポールに輸入される特定のサービスが含まれます。
また、シンガポールに商品やサービスを提供する海外事業者にも、特定の条件に基づきGST登録が義務付けられています。
GST登録義務を確認するためのツール
シンガポール内国歳入庁(IRAS)では、GST登録の要件を確認するための「GST登録計算ツール」を提供しています。
このツールを利用することで、事業者は自身のGST登録義務を簡単に判断できます。
公式ウェブサイト:GST登録計算ツール
GST登録手続き
GST登録手続きは、必要書類を整えてから、mytax.iras.gov.sgで申請ができます。
ステップ1: 必須登録か任意登録かを決定します。
ステップ2: GSTの基本的な知識を得るために、e-Learningコースを受講し、コース内のクイズに合格する必要があります。
任意登録者の場合は、GST申告書の準備者や経営者がコースを受講することも必要です。
ステップ3: 申請と関連書類はすべてオンラインでmytax.iras.gov.sgを通じて提出します。
必要書類は事前にPDF形式で用意しましょう。
任意登録の場合、GST支払いや返金のためにGIROへの登録が必要です。
ステップ4: 申請書は通常、10営業日以内に60%、30営業日以内に残りの申請が処理されます。
不備がある場合は処理されないので、必要書類を全て揃えて提出しなければなりません。
ステップ5: 登録が承認されると、登録された住所に通知書が届き、GST登録番号と有効開始日が記載されます。
この日からGSTの課税を開始する必要があります。
シンガポールGST登録が免除になる条件
シンガポールでは、年間課税売上高が100万シンガポールドルを超える事業者は通常GSTの登録が義務付けられます。
しかし、特定の条件を満たす場合には登録の免除を申請することが可能です。
GST登録の免除を申請できるのは、以下の2つの条件を満たす場合です。
1.ゼロ税率(Zero-rated supplies)の割合が90%以上
2.課税対象の売上全体に占めるゼロ税率の売上の割合が90%を超えていること。
課税対象の売上には、標準税率(Standard-rated supplies)およびゼロ税率の売上が含まれます。
ただし、以下のものは除外されます。
・仕入先から受け取った「顧客会計方式(Customer Accounting)」の対象となる取引
・逆課税方式(Reverse Charge)の対象となる輸入サービスおよび低価格商品(Low-value goods)
・GST登録をしていた場合、純還付(Net Refundable Position)となること
・GST登録を行った場合、仕入れや輸入にかかるGSTの還付額が、売上に対する課税額を上回ると見込まれること。
該当する事業者は、GSTを徴収されせずに事業運営が可能となるため、登録免除を申請できます。
免除申請が承認されると、売上に対するGSTの徴収やGST申告の義務がなくなります。
免除申請と考慮事項
GSTの登録免除を希望する事業者は、「GST F2(Application for Exemption from Registration)」フォームを提出し、必要書類を添付して申請する必要があります。
免除が承認されると、GSTの徴収や申告が不要になりますが、仕入れやサービスにかかるGSTの還付を受けることはできません。
免除が承認された後も、事業者は引き続き取引状況を監視し、免除資格を満たし続けているか確認する必要があります。
以下のいずれかの状況が発生した場合、免除資格を喪失し、30日以内に税務当局へ通知してGST登録を行う必要があります。
・四半期ごとの確認で、ゼロ税率の売上割合が90%以下となった場合
・過去12か月間において、GST登録をしていた場合に純還付ではなく純支払い(Net GST Payable Position)になっていた場合
・ゼロ税率の売上を停止し、標準税率、免税、または適用外の売上のみを行うようになった場合
登録義務が発生したにもかかわらず適切な通知を行わない場合、罰則が科される可能性があります。
事業者は取引状況のモニタリングを継続し、必要に応じて税務当局へ適時に報告することが求められます。
シンガポールGSTの課税対象となる取引
課税対象/ 標準税率(9% GST) |
課税対象/ ゼロ税率(0% GST) |
非課税対象/ 免税(GST適用なし) |
非課税/ 適用外(0% GST) |
|
物品 | ・国内販売の大部分が該当 例)シンガポールの小売店でテレビを販売 |
・輸出品 例)海外顧客にノートPCを販売し、海外住所へ配送 |
・家具なし住宅の販売・賃貸 ・投資用貴金属の輸入・国内供給 |
- 海外から海外への直接配送(シンガポールを経由しない) ・個人的な売買取引 |
サービス | ・国内で提供されるサービスの大部分が該当 例)シンガポールのスパで提供されるマッサージ |
・国際サービス 例)シンガポールからタイへの航空券 |
・金融サービス 例)債券の発行 ・デジタル決済トークンの取引 例)ビットコインを法定通貨に両替 |
・個人的な取引 |
参考 : IRAS”Goods and Services Tax (GST): What it is and how it works”
シンガポールで課税対象となる取引には、国内で供給される商品とサービスが含まれます。
この税制により、企業はインボイスの発行を通じて消費税を徴収します。
輸入品にもGSTが適用され、国内消費に対して公平に税負担が反映される仕組みです。
課税対象の取引を正しく判断することが求められます。
企業は自社の取引が課税対象であるかを正確に判断し、適切なインボイスを発行する必要があります。
GSTの申告は四半期ごとに行われ、税務当局に正確な税額を報告する義務があります。
シンガポールGSTの申告時に気を付けるべきこと
税務申告時に注意しなければならない点は、以下の通り多岐にわたります。
まず、全てのインボイスが適切なTax Invoiceとして必要な条件を満たしているか確認が必要です。
また、インボイスが正確に申告する法人名義で発行されているかどうかも重要なポイントとなります。
非課税の売上がある場合には、その影響によって仕入税額控除が減少しないか、念入りに確認してください。
そして、申告のタイミングが正しく請求日または支払日を基準にして行われているかもチェックする必要があります。
GSTの申告は、四半期ごとに実施され、各四半期の終了後の月末が提出期限です。
そのため、各企業は、四半期ごとに必要な帳簿を整理し、インボイスを適切に集計するための準備を行っておくことが求められます。
急いで還付を受け取りたい場合には、月次申告へ変更する申請を考慮することができます。
さらに、GST申告に関連して、税務当局からの問い合わせが頻繁に起こることがあります。
特に、仕入税額控除や非課税取引の適用範囲に関して正確な確認が求められる場合があります。
過剰な仕入税額控除を申告したり、非課税取引を誤認したりすると、罰則が課されることもあるため、慎重に申告を行う必要があります。
正確性を保つために、定期的に申告内容を再評価し、税務の専門家の意見を参考にすることをおすすめします。
まとめ
シンガポールのGSTは、商品やサービスに対して課される9%の税金であり、特定の事業者に登録が義務付けられています。
登録義務は年間売上高が100万シンガポールドルを超える事業者に適用され、登録を行うことで、事業者は消費税還付や課税取引に対応できます。
特定の条件を満たす場合、登録の免除が可能となり、その場合には税収の申告義務が免除されます。
さらに、GSTが適用される取引には国内での取引や輸出品などがあり、これらに対して適切な税率が課されます。
シンガポールで事業を行う企業は、GSTの制度や登録の要件、課税対象となる取引を十分に理解して、適切な税務対応を行うことが重要です。
なお、この記事でご紹介している情報は、シンガポール内国歳入庁(IRAS)の公式情報に基づいています。
最新の情報や税制変更については、シンガポール内国歳入庁の公式ウェブサイトをご確認いただくことをおすすめします。