留学やワーキングホリデー(ワーホリ)である程度長期間海外に出かける時、あるいはどこか好きな国に海外移住しようという時、「引っ越しの届出」すなわち
「住民票の移動」は必要なのでしょうか?
海外に出る際は、住民票は抜くべきなのでしょうか?
例えば、住民票を抜いた場合と抜いていない場合では、税金や健康保険、年金の支払い、また、選挙権について、大きな違いが生じることもあります。
また、帰国後の手続きにも影響が出るため、事前にしっかりと考えておくことが大切です。
今回の記事では、「住民票とは何か」から振り返り、
「住民票を抜いた場合の変化」 「メリット・デメリット」
「必要な場合、不要な場合」 「実際の手続き方法・タイミング」をご紹介します。
是非参考にしてみてください!
なお、今回の記事は、個人で留学・ワーホリ・移住などを考えている人を想定しています。
会社で働いていてその会社から海外赴任をする場合などはお勤め先の会社の指示に従ってください。
そもそも住民票とは?
最初に、そもそも住民票とは何かについて、あらためて振り返ってみたいと思います。
戸籍謄本と住民票
日常生活において、市役所や区役所、あるいは町村役場で私たちが入手する機会の多い証明書が「戸籍謄本」と「住民票」ではないでしょうか。
「戸籍謄本」あるいは「戸籍」は、個人の誕生、結婚、離婚、死亡といった、いわば個人の歴史上の身分情報の証明を行うものです。
戸籍謄本には「本籍」といわれる戸籍上の住所が記されていますが、たとえ実際に住んでいる住所が変わっても、この「本籍」は自分で変更の手続きをしない限り変わりませんし、特に変える必要はないとされています。
結婚する時に自分の戸籍謄本を見て、自分の本籍が今住んでいる所と全然違っていてびっくりした、なんていう話もよく聞きます。
戸籍謄本を入手したい場合、本籍地の役所に申請することになります。
でも、人によっては一度も訪れたことのないような、遠い場所だったりすることも少なくありません。
そんな時は電話やメールで連絡して、申請書と手数料を郵送し、戸籍謄本を郵便で送ってもらうのが一般的です。
いずれにせよ、戸籍謄本の入手にはちょっと時間がかかるケースも少なくありません。
戸籍謄本はパスポートを作る時に必要ですので、そんな時は早めに準備しましょう。
一方、今自分がどこに誰と住んでいるのかを証明するためによく使われるのが「住民票」です。
戸籍謄本とは違い、住民票は今住んでいる所の役所で入手できます。
あるいは、マイナンバーカードを持っていれば、コンビニエンスストアなどで発行することもできます。
住民票は現在実際に住んでいる所を示すものであり、もし引っ越す場合は、基本的には必ず届け出をしないといけないことになっています。
引っ越す場合は、それまで住んでいた場所の役所に転出届を提出し、新しく住む場所の役所に転入届を提出します。これで住民票が新しい住所に更新されます。
住民票の役割
居住地を証明する書類である住民票は、日常生活のいろいろな場面で必要になることがあります。
入学の際に学校に提出したり、就職時に会社に提出することもあれば、引っ越しに伴う運転免許証の住所変更等に必要だったりもします。
もっとも、最近では引っ越しと同時にマイナンバーカードも更新することで、住所の証明はマイナンバーカードで済ませられるケースも増えてきました。
住民票は現在の居住地を管理するものですが、これにより、税金(地方税など)、健康保険、国民年金なども管理されます。
引っ越しをすれば、これらのお金を納める自治体も変わるわけですね。
さらに、地方選挙に参加できるかという選挙権の管理の基になっているのも住民票です。
住民票をきちんと移動していないと、いつまでたっても新しい居住地での選挙に参加することができません。
海外に出る時は?
引っ越しをする時は住民票を正しく移動しなければなりません。
新しい居住地の病院で健康保険を利用したり、さまざまな行政サービスを受けるためには住民票の移動は必須です。
しかし海外に出る時はどうでしょう?
市区町村のガイドラインとして、一般的に、1年以上海外に出る場合は「国外転出届」を出して、いわゆる「住民票を抜く」ことが基本とされています。
住民票を抜くと、その人は「非居住者」という扱いになります。
でも、人によってはあえて「抜かない」ことを選択する場合もあります。
比較的長期にわたり海外に出る際、住民票を抜くのと抜かないのでは、具体的にはどんな違いが出てくるのでしょうか。
住民票を抜くとどうなる?
では住民票を抜いた場合の変化について、具体的に見ていきましょう。
税金
日本国内に住民票を持たない場合、非居住者扱いとなり、住民税は支払う必要がなくなります。
もっとも、住民票を抜いた瞬間から住民税を払わなくていいというわけではありません。
住民税は前年の収入等を基に、毎年1月1日現在の居住地を基準に課されることになっており、毎年6月頃に金額が決まります。
そのため、例えば3月頃に住民票を抜いた場合でも、6月頃に支払い通知書が1月1日現在の住所に郵送されてきます。
ですので、親などと同居している場合は問題ありませんが、もし海外渡航と同時に今住んでいる家から完全に出てしまう場合は、郵便物の転送先を親がいる実家などに指定しておく必要があります。
あるいは、役所に、税金を代理で支払ってくれる人の住所等を登録しておきます。
6月を過ぎ、通知書が既に送られてきていて、それを全額支払って海外に出てからは、もう地方税の請求はありません。
所得税についても若干の制度上の変化がありますが、影響の出る人は少ないと思われますので、今回は割愛します。
健康保険
住民票を抜くと、国民健康保険の保険料の支払いも停止します。
ただ、海外の医療費は日本と比べて高い場合が多いため、住民票を抜かないままにしておいて健康保険料を払い続け、日本に帰ってきて治療を受けるという人もいたりします。
年金
60歳以下の日本人は、国民年金保険料の納付が義務とされています。
しかし、住民票を抜いた場合は、保険料の納付が「義務」から「任意」に変わります。
つまり、海外にいる間、国民年金保険料を納付し続けるか納付しないかが選べるわけです。
納付しない場合、60歳までに納める金額が減るわけで、将来もらえる年金額がその分減少することになります。
選挙権
国内で引っ越す場合、転出・転入手続きをして住民票をきちんと移動していないと、新しい居住地での地方選挙の選挙権が与えられません(引っ越す前の居住地での選挙権は残っていますけれども)。
住民票を抜いて海外転出する場合は、地方選挙の選挙権は消滅します。
都道府県知事、市長、区長、町長、村長、また各議会議員選挙には参加することができません。
一方、国会議員を選ぶ国政選挙の場合、一部を除いて、海外にいても参加することができます。
国や地域によってシステムが違う場合もありますが、出国前に、あるいは、渡航後現地の大使館や領事館等で事前申請しておきます。
住民票を抜くメリット・デメリット
ここまで、住民票を抜くとどのようなことが起きるのかについて解説しました。
それを、あらためて、「メリット」「デメリット」の観点から見てみましょう。
住民票を抜くメリット
・「非居住者」としてきちんと登録される。
私たちにとって直接のメリットというわけではありませんが、今どれくらいの日本人が海外にいるかなど、国の統計等の正確性に寄与することができます。
・住民税を支払わなくてよくなる。
ただし、海外転出のタイミングによっては、渡航後に住民税の支払い通知書が来たりします。
そのため支払いを家族等に託す必要があります。
代理で支払ってくれる人の住所・名前を事前に役所に登録することが可能です。
受け取り・支払いの代理人を探すのが難しい場合は役所で相談しましょう。
・国民健康保険保険料を支払わなくてよくなる。
・国民年金保険料の支払いが「義務」から「任意」になり、支払わなくてもよくなる。
ただし、支払わない場合、将来受け取る年金額が減少します。
住民票を抜くデメリット
・諸手続きがややめんどうかも。
出国の際に加えて、帰国後も、再度、住民登録や各種保険再加入など、手続きの負担が増えます。
・選挙権がなくなる。
地方選挙の選挙権がなくなります。国政選挙である国会議員選挙の一部は、出国時や海外の日本大使館等に事前申請すれば参加することができます。
・マイナンバーカードが使えなくなる。
日本国内に住所が無い場合、マイナンバーカードは使えません。
住民票を抜く必要がある場合・不要な場合
法律に明確に期間が示されているわけではありませんが、一般的に、1年以上ほぼ連続して海外で暮らす場合は、住民票を抜くべきであるとされています。
大学や大学院に留学するのであれば住民票を抜くのが普通だし、数カ月の語学留学であれば抜かないのが一般的です。
ワーホリになると判断が分かれるケースがあります。
国によってワーホリの期間が違うこと、また、1年たったら延長できる、というようなケースもあり、住民票を抜くか抜かないかは人によって異なることが多いようです。
住民票を抜けば、前項で説明したような「メリット」「デメリット」が考えられます。
逆に、住民票を抜かない場合、日本在住時と同様の権利等は維持されますが、税金や、国民健康保険保険料、国民年金保険料といった社会保険料は海外にいる時も支払い続けなければなりません。
自分が直接支払うのが難しい場合は、代理で支払ってくれる人を見つける必要があります。
住民票を抜く方法・手続きの流れ
住民票を抜く、つまり海外への転出届(国外転出届)を出すには、次のような手続きを行います。
転出届と同時に、国民健康保険や国民年金の手続きをするのが一般的です。
①出国予定日の2週間前(自治体により異なる)から届出が可能
自治体によって多少異なる場合もありますが、国外転出届は、出国予定日のだいたい14日前から受け付け開始のところが多いです。
②市区町村の役所に行く、またはオンライン申請
手続きは、現在住民票がある市区町村の役所で行います。
マイナンバーカードとマイナポータルを使えば、一部の自治体ではオンライン申請も可能です。
③必要書類を準備する
・本人確認書類:運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど
・届出書(国外転出届):役所で入手 or 事前に印刷(自治体HPから)
・マイナンバーカード:返却が必要になります(カードは回収され、失効)
・印鑑:自治体によって必要な場合あり
④窓口で届出・確認
書類を提出し、職員の指示に従って確認を受けます。
転出先は「国名」と「都市名(可能であれば)」を記載する。
出国予定日も申告します。
⑤マイナンバーカードの返却
マイナンバーカードは海外転出と同時に失効扱いになります。
自治体によって、カードを回収される場合と、所持したまま(無効状態)になる場合があります。
⑥転出証明書の発行(通常は不要)
国内の引っ越しと異なり、海外への転出では「転出証明書」は交付されません。
ただし、必要に応じて請求ができます。
健康保険や年金などについても、各窓口で手続きを行います。
国政選挙の選挙権を維持したい場合は、ここで「在外選挙人証」の手続きを別途行うこともできます。
まとめ
海外での生活を始める際、日本の住民票を抜くかどうかは、税金や健康保険、年金、そして選挙権などさまざまな重要な事柄に関わってきます。
基本的には1年以上海外で暮らす場合は住民票を抜くことになっていますが、1年前後の場合はけっこう微妙だったりもします。
いろいろなことを考え合わせて、慎重に判断しましょう。
なお、今回の記事は標準的な手続き等をご説明しましたが、自治体によって異なる部分もあります。
住民票を抜く場合の手続き、また、その際の健康保険や年金の手続きについては、各自治体の窓口で詳しく相談してみてください。
また、今回は触れませんでしたが、日本国内において不動産収入やNISAをはじめとする投資による配当利益等がある場合、海外にいても、住民票を抜く・抜かないに関わらず、日本の確定申告を行い所得税を支払う(あるいは還付してもらう)必要があります。
こうしたことについても、渡航前に早めに役所と相談するようにしましょう。

◇経歴
児童英語講師
オンライン英会話講師
NC英語アドバイザー
英語学習ライター
元大学教員
◇資格
TESOL/TEC(CANADA)
中学校教諭二級免許状(英語)
◇留学経験
アメリカ・サンディエゴに語学留学(2カ月)の経験あり
その後、オーストラリア・シドニーに大学院留学(2年)の経験もあり
◇海外渡航経験
25歳で初めて、短期間の語学留学をきっかけに本格的に英語の勉強を開始しました。
雑誌の編集・ライティング、テレビCMの企画・撮影等などの仕事が長く、英語を使っての海外取材や撮影経験も多く経験しています。また海外で日系新聞社の副編集長をしていたこともあります。
◇自己紹介
「英語学習に終わりはない」「継続は力なり」を実感し、50代半ばから毎日英語の勉強を続けて2000日近くが過ぎました。
「楽しく学ぶ!」をモットーに、僭越ながら私の異文化経験や英語の知識などをブログに織り交ぜながら、執筆することを心がけています!ネイティブキャンプのオンライン講師もしています。初心者・初級者限定ですが、ぜひ一緒に学びを続けましょう。