旅行や留学、あるいはワーホリ(ワーキングホリデー)で海外に出かける際、不安なことの一つが滞在中の病気やケガです。
慣れない土地で相談できる人も少なく、病院にどうやって行けばいいのかわからない。
病院がわかっても英語でやりとりできるだろうか。
救急車は日本のように来てくれるの。
いったい医療費はいくらくらいかかるのかーーそんな心配事が次々と頭の中に浮かんでくるかもしれません。
また、思ってもみなかった、日本に暮らしていては想像もつかなかった、日本の医療システムとの違いなどが存在することもあります。
ですので、渡航前に、医療に関する知識やノウハウを調べるなど、イザという時の準備をしっかりとやっておくのがとても大事になってきます。
今回の記事では、旅行、留学、ワーホリのいずれの渡航先としてもとても人気の、オーストラリアの医療制度や医療費について解説していきたいと思います。
加えて、海外渡航時の保険の必要性、健康を維持するための心構えなどにも触れます。
オーストラリアへの渡航の際にお役に立てれば幸いです。
オーストラリアの医療制度
まずは日本とオーストラリアの医療制度の相違点や類似点です。
多くの病気はまずGPに予約を
風邪を引いたら内科へ、耳が痛くなったら耳鼻科へ、発疹ができたら皮膚科へ、というのが日本では普通ですが、オーストラリアでは違います。
こうした場合はすべて、GP(General Practitioner)と呼ばれる総合診療医を訪れるのが普通です。
一人のお医者さんが何でも診てくれるのです。
街の中を歩いていると、GPの看板をよく見かけます。
GPは風邪や軽いケガなどの初期診療を担当し、専門的な治療が必要と判断した場合には専門医や大型の病院への紹介状を発行します。
もしオーストラリア旅行中あるいは留学中に風邪を引いてしまった、などという場合は、やはりまずはGPに行くことになります。
筆者も、オーストラリアに住んでいた時、風邪を引いた時も、耳の調子がおかしくなった時も、近くのGPを訪れました。
同じ先生がいろいろな病気に対応するのに感心した思い出があります。
もちろん、重篤な症状やひどいケガなどの場合は、直接、専門医がいる病院に行くことになるケースもあります。
GPを訪れる際、気を付けなければならないのは、一般的に予約制であること。
日本の場合、風邪を引いたら近くの内科にふらっと予約無しで行くのも普通ですが、オーストラリアでは予約が必要な場合が多いです。
電話をして予約を取りますが、混んでいると当日は診察してもらえない場合もあります。
最近ではインターネットで予約できたり予約状況を確認できるGPも出てきたりしています。
また、オーストラリアでは薬剤師の役割が大きく、軽い症状であればGPを受診せずに薬局で薬剤師に相談し、適切な市販薬を購入することも可能です。
ただし、抗生物質など一部の薬剤は医師の処方箋が必要になります。
日本語が通じる医療機関も
シドニー、メルボルン、ブリスベン、ゴールドコーストといった主要都市には日本語対応の医療機関もあります。
予約から診療、支払いまで日本語で対応してくれるため、英語に不安がある人でも安心して利用できます。
渡航前に調べておくのもいいでしょう。
緊急電話は「000」救急車は有料
日本では警察は「110」、救急車と消防は「119」ですね。
こうした緊急電話番号は国によって全然違いますので、渡航前にしっかりと覚えておきましょう。
オーストラリアの緊急電話 は「000」です。
ゼロが3つ。
日本と違い、この1つの番号で警察・救急車・消防のすべてをカバーしています。
「000」に電話すると、オペレーターがどんな緊急事態かを尋ねます。
以下、電話での会話例です。
Operator: Emergency. Police, fire, or ambulance?
You: Ambulance!
電話交換手:緊急番号です。
警察ですか、消防ですか、救急車ですか?
あなた:救急車!
オーストラリアでは、公立病院の救急部門(Emergency Department:ED)が24時間体制で緊急時に対応しています。
病気の重い症状が出ているなど、緊急時には救急車を利用するか、自らEDに赴くことになります。
日本では救急車は原則無料ですが、オーストラリアでは無料の州と有料の州に分かれます。
また、無料になるのはオーストラリア在住者のみで、旅行者等は含まれません。
州や地域によって料金が異なりますが、救急車1回の利用で10万円前後と、高額になるのもまれではありません。
後述するように、救急車利用を考慮した旅行保険等に加入しておくのが安心です。
オーストラリアでの医療費の例
医療保険や海外旅行保険については後述しますが、もしこうした保険に入っていなかった場合、どれくらいの医療費になるのでしょうか。
オーストラリアでの医療費は日本と比較して高くなることが多いと言われています。
いくつかの具体例を挙げましょう。
一般診療(GPの診察):1回の診察で約70~100豪ドル(約7000円~1万円)。
専門医(Specialist)の診察:1回の診察で約150~300豪ドル(約1万5000円~3万円)。
レントゲンやMRIなどの画像診断:300~1000豪ドル(約3万円~10万円)。
薬代(抗生物質や解熱剤など):1回の処方で20~50豪ドル(約2000円~5000円)。
実際にオーストラリアで医療を受けた際の費用例として、以下のようなケースがあります。
歯の治療:1本の虫歯を治療し、金属の詰め物をして約15万円の料金がかかりました(筆者の実体験)。
歩行中の貧血:信号待ちの時に意識を失い転倒し、救急車で病院に搬送。
その後入院となり約45万円の医療費・救急車搬送費がかかりました。
骨折の治療:ホームステイ先の庭で遊んでいて木から落下し、手首・肘を骨折。
10日間入院・手術を受け、家族が駆けつけたケースで、約610万円の医療費がかかりました。
熱中症・肺炎の治療:寒気を感じて受診し、熱中症・肺炎と診断され18日間入院。
家族が駆けつけたケースで、約670万円の医療費がかかりました。
上のように、オーストラリアでは一般的な診療でも日本と比較して高額であり、入院や手術が必要な場合は数百万円から数千万円に達することも珍しくありません。
そのため、後述するような、十分な補償が受けられる保険に加入しておくことが不可欠です。
オーストラリアの医療保険制度
なぜオーストラリア、あるいは海外の医療費は日本と比べてそもそも高いのか。
その理由ははっきりとはわかりません。
通貨レートの問題もありますが、文化的な違いもあるのかもしれません。
高額の医療費に備えるために、保険への加入は欠かせません。
オーストラリアに限らず、海外に出かける際は、保険なしでは済まされないと考えた方がいいと思います。
では具体的にどんな保険があるのか。 順に見ていきましょう。
日本と似た保険制度があるが
オーストラリアには、オーストラリア国民や永住権を取得した人が対象の「メディケア(Medicare)」と呼ばれる公的医療保険制度があります。
日本の健康保険に似ていて、公立病院の診察料等が無料になる場合もあります。
「オーストラリアの医療費は無料なのですか?」という質問を聞くことがありますが、メディケアがカバーする疾病であれば確かに無料になるものもあります。
また、オーストラリアの人々は、このメディケアと、歯科治療などメディケアではカバーされない、自分が必要と思う民間の医療保険に加入して医療費支出に備えるのが一般的です。
さらに、勤め先の企業や団体が社員やその家族の医療費を負担してくれる場合も多いです。
旅行者、留学生やワーキングホリデー参加者などの一時的な滞在者は、メディケアの対象外です。
日本人旅行者や留学生は、基本的に自費診療となります。
また、短期的な勤め先やアルバイト先が医療費を負担してくれることはめったにありません。
そのため、自分で医療保険に加入しておくことが大事になります。
留学生にはOSHCに加入する義務が
3カ月以内の旅行や商用滞在であればビザ(査証)は必要ありませんが、大学や大学院に留学する場合、また、長期間語学学校に留学するというような場合、学生ビザを取得しなければなりません。
学生ビザを取得する際に必須となるのが、留学生向け保険である「OSHC(Overseas Student Health Cover)」への加入です。
オーストラリアに3カ月を超えて留学する場合、「OSHC」という海外留学生向けの健康保険への加入が義務付けられています。
OSHCに加入することで、病気やケガで病院に行った際の診療費の一部が補助されます。
ただし、歯科治療や眼科治療、救急車の費用などはカバーされない場合が多いため、必要に応じて追加の保険に加入するのが望ましいです。
筆者も、オーストラリアにいた時、OSHCに加えて歯科の保険にも追加で加入していました。
ワーホリ(ワーキングホリデー)向け保険
ワーキングホリデービザでオーストラリアに滞在する場合、OSHCのような義務的な保険はありませんが、メディケアの対象にはならないため、民間の海外旅行保険に加入することが推奨されます。
さまざまなワーホリ保険が出ていますのでいろいろと検討してみるのがいいでしょう。
海外旅行保険とは
海外旅行保険は、海外旅行中に病気やけがをした際の治療費や救急搬送費(救急車料金)、さらには盗難・損害賠償などをカバーしてくれる保険です。
海外旅行保険の補償内容
海外旅行保険では、例えば、以下のような補償が受けられます。
治療費・入院費:病気やケガで病院を受診した場合の医療費・入院費用をカバー。
救急車費用:州によって異なる救急搬送費を補償。
救援者費用:家族が看病のために渡航する費用を補償。
緊急移送・本国送還:重症の場合、日本への移送費用を負担
盗難・紛失:携行品の盗難や紛失、破損に対応。
賠償責任:事故などで他人にケガをさせたり、物を壊してしまった場合の補償。
旅行期間やどれくらいの損害範囲をカバーするかによって保険料金は変わってきます。
1週間の海外旅行だと、数千円〜2万円程度の保険に加入する人が多いようです。
ネットでも空港でも加入できる
海外旅行保険に加入する方法はいくつかあります。
最近では、スマホから簡単に加入できるようになりました。
また、空港には保険加入のカウンターもありますし、手軽な自販機も設置してあります。
クレジットカード付帯の保険で十分?
一部のクレジットカードには海外旅行保険が付帯されていることが多いです。
特にゴールドカードなどになると、かなりの補償内容となっています。
「ゴールドカードの年会費は2万円近いけれども、年に1回以上は海外旅行をするのでその保険金を考えれば高くない」という人もいます。
ただ、クレジットカードの種類によって補償内容・補償金額は大きく異なりますので、自分が持っているカードにどのくらいの保険が付いているのかをしっかり確認しておきましょう。
補償金額が低い場合は、別途、追加で保険に入ることをおすすめします。
また、クレジットカードの付帯保険は、3カ月以内の海外旅行のみ有効、という場合が多いです。
自分のカードの保険の有効期間などについても、十分確認しておきましょう。
健康でいるための心構え・対策
オーストラリアへ出かける前と滞在中の主な注意事項をまとめてみました。
出発前の確認事項
季節・地域に合った衣服を用意
南半球にあるオーストラリアは、日本とは季節が真逆になります。
日本が夏ならオーストラリアは冬、日本が冬ならオーストラリアは夏です。
間違えずに、季節に合った服を準備しましょう。
また、地域によってかなり気候が異なります。
事前に調べて準備しましょう。
全般的に紫外線が強いので、日焼け止めやサングラスが必需品となります。
医療機関の情報を確認
滞在先の近くにある日本語対応の病院や診療所をあらかじめ調べておくと、いざという時に安心です。
保険会社やクレジットカード会社の窓口に尋ねておくのもいいと思います。
また、旅行保険の契約内容を確認し、どの病院でキャッシュレス診療が可能かを把握しておくと安心です。
マスクや薬の準備
日本のように簡単にマスクが買えるとは限りません。
日本から持っていくのが無難です。
常備薬も忘れないように(ただし、薬の種類によっては入国時に申告が必要なものもあります)。
電話のかけ方を確認
オーストラリアでの携帯電話の使用方法を確認しておきましょう。
オーストラリアから日本にかける場合にはどうするかなども忘れずに。
滞在中の注意事項
気候への対応
オーストラリアは世界でも紫外線が特に強い地域の一つです。
日焼け止め、帽子、サングラスの着用を習慣化し、できるだけ直射日光を避けましょう。
また、乾燥した気候のため、知らず知らずのうちに脱水症状になることがあります。
特に夏場は多くの水分を摂取することを心がけましょう。
1日の寒暖差が非常に激しい地域もあります。
食生活を整える
洋食文化のオーストラリアでは、外食が高カロリーになりがちです。
野菜や果物を意識して摂取し、バランスの良い食生活を心がけましょう。
生水の安全性は地域によりますが、ミネラルウォーターを利用するのが無難です。
野生生物や毒物に注意
オーストラリアには危険な動物や毒性の強い昆虫なども生息しているため、現地のルールを守ることが重要です。
海にはサメもいます。 遊泳可能範囲を確認しましょう。
一人で山林に踏み込んだり、花や草に触るのも避けた方が無難です。
まとめ
今回は、オーストラリアの医療制度や、渡航前に知っておきたい保険の種類などについて解説しました。
オーストラリアでは医療費が高額になる可能性があるため、事前の準備が非常に重要です。
特に、滞在期間やビザの種類によって適用される医療保険が異なるため、自分に合った保険を選ぶことがポイントです。
保険への加入に加え、健康管理を徹底し、現地の医療機関の情報を把握しておくことで、安心してオーストラリアでの生活や旅行を楽しむことができるでしょう。
オーストラリア滞在を充実したものにするために、事前準備をしっかり行い、安全で快適な時間を過ごしてください!

◇経歴
児童英語講師
オンライン英会話講師
NC英語アドバイザー
英語学習ライター
元大学教員
◇資格
TESOL/TEC(CANADA)
中学校教諭二級免許状(英語)
◇留学経験
アメリカ・サンディエゴに語学留学(2カ月)の経験あり
その後、オーストラリア・シドニーに大学院留学(2年)の経験もあり
◇海外渡航経験
25歳で初めて、短期間の語学留学をきっかけに本格的に英語の勉強を開始しました。
雑誌の編集・ライティング、テレビCMの企画・撮影等などの仕事が長く、英語を使っての海外取材や撮影経験も多く経験しています。また海外で日系新聞社の副編集長をしていたこともあります。
◇自己紹介
「英語学習に終わりはない」「継続は力なり」を実感し、50代半ばから毎日英語の勉強を続けて2000日近くが過ぎました。
「楽しく学ぶ!」をモットーに、僭越ながら私の異文化経験や英語の知識などをブログに織り交ぜながら、執筆することを心がけています!ネイティブキャンプのオンライン講師もしています。初心者・初級者限定ですが、ぜひ一緒に学びを続けましょう。