熱帯地域における代表的な感染症の一つであるデング熱は、東南アジア、南アジア、ラテンアメリカなどで広く流行しています。
特に東南アジア諸国では、深刻な健康問題として位置付けられています。
デング熱は、蚊を媒介として人から人へと感染が広がる病気で、中でもタイは、観光地として世界中から多くの旅行者を受け入れている一方で、毎年数万人規模のデング熱感染者が報告される国の一つです。
さらに、近年は症例数が増加傾向にあります。
今回は、タイにおけるデング熱の最新動向や年間感染状況、感染しやすい地域や年齢層、発症後の症状や重症化リスク、死亡率、そして予防と対策の方法について、旅行者や長期滞在者が知っておくべきポイントを網羅的に解説します。
タイにおけるデング熱の年間感染状況
タイでは毎年、6月から9月にかけての雨季を中心にデング熱の感染が拡大しています。
蚊が活動しやすい高温多湿の気候が続くため、感染流行のピークを迎えます。蚊の繁殖に適した環境が整いやすく、感染リスクも著しく高まります。
特にバンコク、チェンマイ、ウボンラーチャターニーなどの都市部や観光地では、排水設備の未整備や不衛生な環境による蚊の発生源が多く、感染報告が多くなっています。
2023年には、タイ保健省が発表した統計によると、全国で約12万人を超える感染者が報告されました。
これは前年と比較して大幅な増加となっていて、都市部以外でも、観光客が多く訪れるプーケットやサムイなどの観光エリアでも多数の症例が確認されています。
コロナ禍での外出制限が緩和され、人の移動が増えたことも要因のひとつだとされています。病院ではデング熱の専用診療窓口を設けるなど、感染拡大への対応が強化されていますが、それでも一部の地域では医療機関がひっ迫するケースも報告されています。
タイはWHOの加盟国なので、タイ保健省は毎年デング熱の報告体制を強化して、情報共有を進めていますが、完全な抑制には至っていません。
感染リスクが高い地域と年齢層
デング熱は、都市部や観光地など人が密集する場所で特に感染リスクが高まります。感染リスクが特に高いのは、蚊の繁殖に適した環境、つまり水たまりなどが存在する場所が危険です。
使われていないバケツや植木鉢の受け皿、空き缶やペットボトルのキャップといったごく小さな水たまりであっても、デング熱を媒介するヒトスジシマカは容易に産卵・繁殖します。
特に住宅密集地では、昼夜を問わず蚊に刺されるリスクがあり、感染の可能性が高まります。
感染者の年齢層を見ると、15歳未満の子どもに感染者が多く報告されていたものの、近年では20〜40代の働く世代の患者も増加傾向にあります。これは仕事や外出による、感染地域での屋外活動が影響していると考えられています。
また、感染リスクのある地域に長時間滞在する機会が多い外国人旅行者や駐在員も例外ではなく、日本人を含む観光客の間でも感染報告が増加しています。
現地で感染後に帰国して、国内で発症する「輸入症例」も多く、国際的な衛生問題として注目されています。
デング熱の症状と重症化リスク
通常デング熱の症状は、感染後4〜7日の潜伏期間を経て現れます。初期症状には、38〜40度の高熱、頭痛、筋肉痛、関節痛、眼窩痛、皮膚の発疹などがあります。
こうした症状は風邪やインフルエンザ、あるいはコロナウイルス感染症とも似ており、初期段階での自己判断が難しく、他の病気と区別がつきにくいため、医療機関での正確な診断が求められます。
もしデング熱にかかってしまった場合、特効薬はなく、対症療法が中心になります。病院での治療では、輸液、解熱剤、点滴などを使用して、体力の回復を促す処置が主になります。
注意すべきなのは、重症デング熱やデング出血熱に進行してしまうケースです。
これは、出血や血小板の減少、ショック症状を伴って、死亡に至る可能性もある深刻な合併症です。特に免疫力の弱い子ども、高齢者、妊婦、基礎疾患を持つ人は、重症化のリスクが高いため、早期の医療機関受診が不可欠です。
感染確率と死亡率の実態
デング熱の感染は、ウイルスに感染した媒介蚊に刺されると、約50〜70%の確率で症状が現れるとされています。
特にワクチンを接種していない人や、過去に感染歴がない人はリスクが高まります。感染しても、多くの場合は自然に回復しますが、過去にデング熱にかかったことがある人が、異なる型のウイルスに再感染すると重症化しやすくなるという報告もあります。
死亡率については、軽症例では1%未満にとどまるとされていますが、デング出血熱や重症デング熱など重症に進行した場合の死亡率は、最大で20%にも及ぶとの報告があります。
実際に、医療機関への受診が遅れたことで命を落とすケースも報告されているため、症状が出た段階での迅速な医療機関の受診が極めて重要です。
日本国内でも、現地で刺されて感染したのちに、日本に帰国してから発症する輸入感染症として、デング熱が報告されるケースが増えており、厚生労働省や外務省も注意喚起を強めています。
予防策:蚊に刺されないための対策
デング熱は、現在のところ完全に防ぐ方法が確立されていないため、最も重要な予防は「蚊に刺されないこと」です。
以下のような対策を組み合わせることで、蚊に刺されるリスクを大幅に減らせます。
服装に気をつける
長袖、長ズボンを着用したり、マスクの着用、素足でのサンダル履きなどを避けて、肌の露出を減らすことで、蚊に刺されるリスクを軽減できます。
特に夕方から夜間にかけて蚊の活動が活発になるため、外出時は注意が必要です。また、蚊は色の濃いものに近づく傾向があるので、白やベージュなど薄い色や、淡い色のシャツやズボンを選ぶのも効果的だと言われています。
虫除けグッズで防ぐ
虫除けグッズなどで予防することも大事です。ディートやイカリジンが含まれた虫よけスプレーの使用は、デング熱対策としても推奨されています。
効果が持続するタイプを選び、汗をかいてしまったら再塗布しましょう。
レモングラス、シトロネラ、ラベンダー、ユーカリなどのアロマオイルには、蚊が嫌う香りが含まれています。
また、スプレーやクリームタイプだけでなく、最近はウェアラブル型の虫よけグッズや虫よけリングなどもたくさんありますので、併用することで、より効果的な防御が可能です。
宿泊施設では蚊帳を使用するか、窓に網戸がある部屋を選ぶようにして、室内では電気蚊取り器、蚊取り線香、ベープマット、蚊帳などを活用して、蚊が侵入しないよう注意しましょう。
玄関やベランダに虫除けハーブや吊り下げ型虫よけグッズを設置するのも良いでしょう。特に就寝時の使用が効果的です。
安価なゲストハウスでは、蚊の対策が不十分なことがあるので、衛生管理の行き届いたホテルや宿泊施設を選びましょう。冷房環境では蚊の活動が鈍くなる傾向があるため、室温を涼しく保つことも予防になります。
蚊の発生を抑える
デングウイルスを媒介するヒトスジシマカの産卵場所は、主に人工的な容器の中です。成虫は雑木林や竹林などに生息し、日の出から日の入り時間まで活発に活動します。
交尾後、水中に産卵しますが、沼や池のような広い場所よりも、屋外に置かれた植木鉢の受け皿や空き缶、バケツ、ペットボトルなど、狭い水たまりのような場所を好む習性があります。
蚊を発生させないためには、住居や宿泊先の周囲を点検することが大切です。不要な雨水などの水たまりをなくすことが、ヒトスジシマカの発生を抑えることができ、結果的にデング熱の発生を防ぐことができます。
特に放置された空き缶やバケツ、古タイヤ、茂み、植木鉢の受け皿などに水が溜まらないようにこまめにチェックし、清掃することが重要です。雨季には特に水たまりができやすいため、注意が必要です。
蚊が活発に活動する時間帯を避ける
ヒトスジシマカは、特に朝と夕方に活発に活動します。可能であれば、この時間帯の屋外活動を控えるか、特に注意して虫よけ対策を強化しましょう。
ワクチンの接種
2023年以降、タイを含む一部の国では「活性化ワクチン」が導入されています。これは、過去に感染歴のある人に対しては一定の予防効果があるとされています。
しかし、現在のところこのワクチンはすべての人に有効とは限らず、感染歴のない人が接種すると逆に重症化のリスクがあるという指摘もあるため、接種には医師の診断と慎重な判断が必要です。
従って、タイ国内では、抗体検査を行ったうえで感染歴のある人にワクチンを接種するケースも増えています。
現在、日本では予防接種としての承認はされていませんが、今後の研究や国際的なデータの蓄積により、より安全で広範な予防手段が確立されることが期待されているので、将来的には導入が期待されています。
まとめ
タイにおけるデング熱は、依然として重大な感染症として警戒が必要です。特に雨季には感染リスクが飛躍的に高まり、都市部や観光地では外国人旅行者も多く巻き込まれていますので、日本人渡航者や長期滞在者にとっても無視できないリスクです。
発症後の症状は非常につらく、時には命に関わることもあるため、事前の情報収集と予防策の実施が何より重要です。
タイでは毎年、感染者数が増加傾向にあり、特に都市部や観光地での症例数が目立っています。感染リスクが高い地域では、蚊から身を守る予防策が不可欠です。長袖長ズボンの着用や、虫よけ剤の使用、住環境の整備など、日々の小さな行動の積み重ねがデング熱から身を守る最大の手段となります。
万一、発熱などの症状が出た場合には迅速な診断と治療、そして必要に応じた病院での対応が求められます。死亡リスクのある重症デング熱を防ぐためにも、日常的な対策と医療情報の把握が非常に重要です。正しい知識と行動で、安全なタイ滞在を実現しましょう。

◇経歴
英語圏での生活、業務歴10年以上
◇資格
TOEIC900点代後半
◇留学経験
ニュージャージーへ1年間
◇海外渡航経験
シンガポールで2年、台湾で3年、タイで2年仕事してました。
◇自己紹介
英語ができれば世界が広がります!
海外生活経験を活かして、楽しい部分だけではなく、リアルな生活をお届けします!