オーストラリアの巨大コウモリ:フライングフォックスの生態と共存の課題

オーストラリアに住むフライングフォックス(空飛ぶキツネ)とは、いったいどのような生き物なのでしょうか。実は、これはコウモリの仲間なのです。

この記事では、フライングフォックスと呼ばれる巨大なコウモリの生態や、感染症の媒介をはじめとした、共存の課題を紹介します。

フライングフォックスとは?その特徴と生態

コウモリといえば、「暗い洞窟に住む、吸血鬼のような不気味な生き物」というイメージがありませんか?

しかし、実際には他の動物の血を吸うチスイコウモリは、コウモリの中でもごく一部の種なのです。

今回ご紹介するフライングフォックス(空飛ぶキツネ)とは、フルーツバットという森をすみかとし、果物を主食とするコウモリ、特にスンダオオコウモリ属とオオコウモリ属を指します。

これらのコウモリは、東南アジアやオーストラリア等に生息し、キツネに似た細長い顔立ちをしています。

フライングフォックスの特徴

オオコウモリにはコウモリの中でも最大の種が含まれ、大きなものでは体長30cm、体重 1.45 kg、翼を開いた長さは 1.7 mに達します。ただし、小型の種も多くおり、体重50 g未満のものもいます。

コウモリは「翼手」と呼ばれる翼を羽ばたかせることで、哺乳類でありながら自由に空を飛ぶことができます。

コウモリには5本の指があり、指の骨は長く進化しています。この指の間から、後ろ脚まで薄い膜が張っています。小型コウモリには3cmほどの尾があり、後ろ脚から尾にかけても尾膜または腿間膜と呼ばれる膜があります。

しかし、多くのオオコウモリでは、尾は短く退化しており、尾膜も短く目立ちません。

コウモリは後ろ脚の指と前脚の親指に、鋭いかぎ爪を持っています。コウモリと言えば、頭を下にして洞窟の天井にぶら下がっている姿を思い浮かべる人も多いでしょう。

長く曲がった後ろ脚のかぎ爪を引っかけることで、力を使わずにぶら下がっていられるのです。また、オオコウモリの前脚には、親指だけでなく人差し指にもかぎ爪が生えています。

フライングフォックスの生態

いくつかの昼行性の種も知られていますが、ほとんどの種が夜行性です。活動していないときは、木の枝にぶら下がって休んでいます。一匹で休む種もあれば、大きな群れをつくる種もあります。

数十頭の群れがいくつも集まったものをコロニー(集団営巣地)と呼びます。1000頭から1万頭にもおよぶ大きなコロニーを形成することもあり、このような大規模なコロニーはキャンプと呼ばれます。

コウモリはほとんどの時間、頭を下にしてぶら下がって過ごし、交尾もその態勢で行いますが、排泄時は前脚の爪でぶらさがります。

主に昆虫を捕らえて食べている小型コウモリは、エコーロケーション(反響定位)を用います。口から超音波領域の音を出し、大きな耳で周囲からの反射音を集めます。それによって、木の枝や虫の位置などを把握するのです。

一方で、果実を食べて暮らしているオオコウモリの仲間は、視覚に頼って生活しているため、エコーロケーションは使いません。そのため、目は大きく、耳は小さく、キツネのような愛らしい顔立ちに進化したのです。

また、オオコウモリは視覚だけでなく、イヌに匹敵するすぐれた嗅覚も備えており、果物や花の蜜などの食料を、匂いで探し出すことができます。

都市部でのフライングフォックスの存在

オーストラリアのフライングフォックスの主な生息域は、マングローブ林や熱帯雨林などです。

また、オーストラリアの市街地でも、公園や住宅街で木々にぶら下がるオオコウモリの姿を見ることができます。都市部に大きなコロニーを形成し、人間と共存していることも多く、特に5月と6月には、都市部に暮らす群れが最も多くなるそうです。

一方で、人間がオオコウモリの生息地に市街地を拡大してきた、という側面もあります。生息地を奪われただけでなく、電線に引っかかったり、車に衝突したりして怪我をするオオコウモリも多くいるのです。

フライングフォックスが媒介するウイルスとその影響

コウモリが宿主となる感染症としては狂犬病が有名ですが、そのほかにも新興感染症に分類されるリッサウイルス感染症やニパウイルス感染症、ヘンドラウイルス感染症など、さまざまな感染症の原因となるウイルスの保有が報告されています。

このうち、オーストラリアでフライングフォックスが媒介する感染症として、ヘンドラウイルス感染症とリッサウイルス感染症についてお伝えします。

ヘンドラウイルス感染症

ヘンドラウイルス感染症については、現在までにオーストラリアで3名の患者の発生が報告されています。オオコウモリは自然でのヘンドラウイルスの宿主ですが、コウモリ自身は感染しても発病することはありません。

ヘンドラウイルスは、感染したオオコウモリの体液で汚染された飼料を食べることで、ウマに感染します。

そして、感染したウマの体液や排泄物に接触することにより、ヒトに感染すると考えられています。ウマからウマにも感染しますが、オオコウモリからヒト、またはヒトからヒトへの感染は報告されていません。

感染してから約2週間程度の潜伏期間があり、発症すると発熱や筋肉痛などのインフルエンザのような症状や、重篤な肺炎や脳炎をもたらします。特に有効な治療法はなく、致死率が非常に高い感染症です。

コウモリの糞尿が付着しないようにウマの飼料を管理することや、病気のウマをすみやかに隔離すること、衛生に配慮し清掃を徹底することなどにより、ヘンドラウイルス感染のリスクを減らすことができます。

リッサウイルス感染症

リッサウイルス感染症は、ラブドウイルス科リッサウイルス属のウイルスにより引き起こされる感染症です。

リッサウイルスには7種類の遺伝子型があり、遺伝子型1が狂犬病ウイルス、遺伝子型7がオーストラリアコウモリリッサウイルス(ABLV)です。ABLVは、オーストラリアに生息する数種類のフライングフォックスと、食虫コウモリが宿主であることがわかっています。

感染したコウモリの唾液などにウイルスが含まれており、噛まれたり引っかかれたりすることでヒトにも感染します。

コウモリの排泄物からの空気感染の可能性も指摘されていますが、まだ明らかにはなっていません。ヒトのリッサウイルス感染症はまれですが、これまでに9例の患者の発生が報告されており、いずれも狂犬病と同様の症状で亡くなっています。

ABLVに感染した場合、発熱、倦怠感といった症状のほかに、狂犬病患者と同様に、水の刺激で反射的に強い痙攣を起こし、水を恐れる症状(恐水症状)や精神錯乱などが見られる場合があります。最終的には呼吸困難をきたし、発症から1ヶ月前後に死亡する場合が多いです。

潜伏期間は、狂犬病と同じように20~90日間と言われますが、コウモリに噛まれてから27カ月後に発症した症例もあります。

ABLV感染に対しても、狂犬病ワクチンで発症を予防することが可能です。コウモリに噛まれたり引っかかれたりした場合には、ただちに現地の医療機関を受診し、適切な判断をあおぐことが大切です。

気候変動がフライングフォックスに与える影響

オーストラリアでは1994年から2008年にかけての猛暑で、3万匹以上のオオコウモリが死亡したと言われています。近年でも、気候変動の影響で、野生のフライングフォックスは脅威にさらされています。

温暖化によるフライングフォックスの危機

2018年1月、気温46度に達したオーストラリア・シドニーで、3千匹におよぶフライングフォックスが熱波の影響で死亡しました。

また、2019年12月には、メルボルンのヤラ・ベンド公園で4500匹が死にました。コウモリは気温が37度を超えると体温調節ができなくなり、脱水症状を引き起こします。特に、雌や若い個体は暑さの影響を受けやすいです。

さらに、地球温暖化に伴って、熱波だけでなく森林火災による影響もより深刻になっています。大規模な火災が増え、森林火災のシーズンも長期化しているからです。

生態系全体への影響

熱波や森林火災に加えて、開発による生息域の縮小や、農作物への被害や感染症媒介等を理由とした迫害など、人為的要因もフライングフォックスの脅威のひとつです。

そして、フライングフォックスの生息数が減少することは、オーストラリアの自然環境全体に深刻な影響をもたらします。

オオコウモリは主に果実を食す動物であるとともに、飛行距離が長いことでも知られ、身体にさまざまな植物の花粉などを付着させて移動します。

また、食べた果実の種子の一部は長時間消化管内にとどまることもあり、遠く離れた場所で種子を排泄し、植物を広く散布してくれます。コウモリは夜行性でもあるため、夜にしか咲かない花の花粉などを遠くに運んでくれる、という役割もあります。

また、一部の植物は香りが強く色鮮やかな果実を、葉から離れた目立つ場所に実らせるなど、オオコウモリのすぐれた視覚と嗅覚に一致する特徴を発達させています。

鳥は赤やオレンジの果実を食べることが多いが、オオコウモリは黄色や緑の果実を食べることが多い、という研究報告もあります。

そのため、オオコウモリが減少することで、植物はこれまで通りの交配ができなくなり、オーストラリアの生態系全体を維持することが困難になるのです。

その他、都会で見られる生き物

自然豊かなオーストラリアでは、オオコウモリ以外にも、さまざまな野生動物に出会えます。そして、一部の生き物は都会でも見ることができます。

カンガルー

野生のカンガルーは近年個体数が増加しており、特に首都キャンベラでは、餌不足から多くのカンガルーが町中に流入しています。市内には、約40万人の人口に対して、数万頭のカンガルーが生息しているともいわれています。

郊外などでは、車とカンガルーが衝突する事故も問題となっています。

もし、カンガルーが道路に急に飛び出してきて車が撥ねてしまった場合には、おなかの袋の中や道路の周辺で、子どものカンガルーが生存している可能性があります。関係機関に連絡し、保護してもらいましょう。

コカトゥー

キバタンとも呼ばれるオウムの仲間です。白い体に頭の飾り羽の黄色が鮮やかで、日本ではペットとしても人気の鳥です。

しかし、オーストラリアの穀倉地帯では数が増えすぎ、また都会でもその鳴き声の大きさから害鳥として扱われることもあるようです。とても長命で、野生でも20年から40年程度、飼育下では70年以上生きます。

まとめ

フライングフォックスとは、東南アジアやオーストラリアに生息する、果物を主食とするコウモリです。

特徴としては、

・小型の種から非常に大型の種まで、サイズは様々
・尾は短く、前脚の人差し指にかぎ爪がある
・ほとんどの種が夜行性
・エコーロケーションはできない
・耳は小さく、目が大きい、キツネのような顔立ち

が挙げられます。

そして、

・ヘンドラウイルス感染症
・リッサウイルス感染症

といった感染症を引き起こすウイルスの宿主であるため、注意が必要です。必要以上に近づいたり、手を触れたりすることは避けましょう。

しかし、フライングフォックスは、植物の花粉や種子の散布という非常に重要な役割を担っており、オーストラリアの生態系にとって欠かすことのできない存在です。

オーストラリアの都市部では、フライングフォックスが大きな群れをつくることがあり、公園や住宅街でもその姿を見ることができます。また、フライングフォックス以外の生き物では、カンガルーやコカトゥーなどが市街地にも生息しています。

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