
台湾の山あいにひっそりと寄り添う街・九份。台北からほんのひと息移動しただけで、海と霧、赤い提灯がつくり出す柔らかな空気に包まれます。この小さな街を訪れるたび、「ただお茶を飲む」という行為がどれほど贅沢なのかを思い出させられます。
なかでも阿妹茶樓(アーメイチャーロウ)は、観光地としての賑わいを超えて、旅人の足をふっと止めてくれる不思議な場所。外観の存在感だけでなく、茶葉の香りや店内の静けさが、ゆるやかに旅のスイッチを“休息モード”へと切り替えてくれます。
今回は、その魅力を丁寧に紐解いていきます。
- 阿妹茶樓(アーメイチャーロウ)があるのは台湾屈指の観光地・九份
- 阿妹茶樓(アーメイチャーロウ)への行き方
- 知っておきたい台湾茶の特徴
- 阿妹茶樓(アーメイチャーロウ)の人気メニュー
- お茶の淹れ方・飲み方
- その他九份のおすすめ茶坊
- まとめ
阿妹茶樓(アーメイチャーロウ)があるのは台湾屈指の観光地・九份
九份は、台湾らしい山海の景色とレトロな街並みがぎゅっと詰まった観光地。迷路のような坂道の先に佇む阿妹茶樓は、多くの旅行者を惹きつける象徴的な茶樓です。
九份の歴史と街の魅力(海・絶景・街並み)
九份はかつて金鉱で栄えた街で、山肌に沿って家々が重なる独特の景観が特徴です。坂を上るたびに、海を見下ろす絶景がふいに開ける──その瞬間に心を持っていかれる旅行者も少なくありません。
夕暮れが迫る頃には、街全体が柔らかな光に包まれ、どこを切り取っても“写真に残したくなる景色”に変わります。古い建物が並ぶ細い通りを歩けば、茶藝館や茶楼、食事処が入り混じり、観光地として賑わいながらも、どこか懐かしい温度を感じる街です。
「千と千尋」のモデルと言われる人気スポット
九份が一気に観光客を増やした理由のひとつが、ジブリ映画「千と千尋の神隠し」に似ていると言われたこと。公式なモデルではないものの、夜に灯る赤提灯や石段の風景が“あの世界”を思い出させ、多くの人が訪れるきっかけとなりました。
特に豎崎路(シューチールウ)の石段に赤提灯が並ぶ光景は、まるで異世界へ迷い込む入口のよう。台湾旅行のスポットとして語られることが多い理由は、この非日常的な空気に触れた瞬間、誰もが物語の中に引き込まれてしまうからです。

阿妹茶樓の外観・店内が愛される理由
阿妹茶樓が“九份の象徴”と呼ばれるのは、提灯が連なる独特の外観だけではありません。瓦屋根に灯る赤い光が重なり合い、夜になると建物全体がひとつの風景画のように浮かび上がります。店内は木の温もりが漂い、日本語メニューもあるため、台湾が初めての旅行者でも落ち着いてお茶を楽しめる雰囲気。席に座れば、海を望む絶景や九份の街並みが広がり、静かに茶葉の香りに浸る時間が流れていきます。
写真を撮る人が後を絶たないのは、この“ゆったりとした非日常”が、訪れる人の心にじんわり残るからでしょう。
阿妹茶樓(アーメイチャーロウ)への行き方
台北から九份までは思っている以上にアクセスが良く、旅慣れていない人でも迷わず向かえるルートが揃っています。時間帯によって混雑の度合いが変わるため、ゆっくり茶藝を楽しみたい人は、出発時間の工夫が鍵になります。
台北から九份までのアクセス(バス・タクシー・ツアー)
台北市内から九份へ向かう方法は主に「バス」「タクシー」「ツアー」の3つ。もっとも手軽なのは、台北駅や忠孝復興駅から出る直行バス。料金は安く本数も多いのですが、夕方は観光客で大混雑し座れないこともあります。一方でタクシーなら移動はスムーズで、急な雨や荷物が多いときにはとても便利。数人で乗ればコストも抑えられます。
もうひとつの選択肢がツアー参加で、天燈上げと九份観光がセットになったプランも多く、土地勘がない人や家族旅行には安心感があります。台北からおよそ1時間──山の気配が濃くなる頃、九份の独特の空気が迎えてくれます。
九份老街入口から阿妹茶樓までのルート
九份老街入口に着くと、まず感じるのは人の波と香り立つ屋台の匂い。古い街並みにワクワクしつつ歩き始めると、基山街の商店がぎゅっと並び、道幅は驚くほど狭いのに目に入るものは多彩です。阿妹茶樓へは、メイン通りをまっすぐ進み、途中の豎崎路(シューチールウ)の石段を上がるルートが定番。
看板や赤い提灯が導いてくれるので迷うことはほとんどありません。階段を上るごとに海へと視界が開け、茶楼の赤提灯がそっと現れる瞬間は、旅の醍醐味ともいえる静かな高揚感があります。
混雑回避のコツとテラス席に座る方法
阿妹茶樓は九份でも指折りの人気スポットのため、何も考えずに訪れると入店待ちの列に並ぶことになります。比較的入りやすいのは、午前中や日没前後の時間帯。夕暮れの赤提灯が灯り始める瞬間は美しいのですが、その分、観光客が集中します。テラス席を狙うなら「席が空いたらすぐ案内してほしい」と店員に伝えるのがポイント。
日本語が通じるスタッフも多いため、気負わず相談できます。予約ができるツアーや事前プランを利用するのも有効で、絶景を眺めながら高山茶を味わう特別な時間に、無理なくたどり着くことができます。
知っておきたい台湾茶の特徴
台湾茶は、香りの奥行きと茶葉そのものの個性を味わえるのが魅力です。産地や製法によって驚くほど風味が変わり、ゆっくり向き合うほどその奥深さが見えてきます。
代表的な茶葉(高山茶・金萱茶)の味わい
台湾でまず出会うことが多いのが「高山茶」と「金萱茶」。高山茶は標高の高い山岳地帯で育つため、朝霧をまとったような清らかな香りが特徴です。飲み口は軽やかでありながら芯があり、すっと抜けるような余韻が残ります。一方、金萱茶は“ミルクティーのような香り”と表現されることも多く、ふんわりと甘くやわらかな風味が魅力。香りが立ちやすいため、茶樓や茶藝館でも初心者にすすめられることが多いお茶です。
どちらの茶葉も、煎を重ねるほどに個性が開き、1杯目と3杯目でまったく表情が違う──そんな “生きているお茶” を実感できます。
台湾の茶芸・茶藝館文化とは?
台湾の「茶芸(チャーイー)」は、日本の茶道よりもずっと日常的で、もっと自由な文化です。堅苦しい作法はなく、“お茶を丁寧に淹れて、いい香りを分かち合う”というシンプルな精神が中心にあります。九份の茶藝館では、観光客でも気軽に茶芸体験ができ、スタッフが茶葉の量やお湯の温度、香りの楽しみ方まで丁寧にレクチャーしてくれます。
茶葉を蒸らす音、湯気に混じる香り、急須に触れた熱──五感がゆっくりほどけていくような時間こそ、台湾茶文化の本質といえます。旅の喧騒がふっと遠のく瞬間に、誰もが心を奪われるはずです。
茶海(チャーハイ)など茶器の役割
台湾茶のテーブルに並ぶ茶器には、それぞれ意味があります。特に重要なのが「茶海(チャーハイ)」。急須で抽出したお茶をいったん茶海へ移すことで、濃さを均一にし、どの杯にも同じ味わいを注げるようにするためのものです。細長い「聞香杯(もんこうはい)」は、香りを楽しむための器。お茶を移した後の器に残る香りをゆっくり吸い込むと、茶葉そのものの個性がふわりと立ち上がります。
また、小さな湯呑みは“味をとらえる器”として機能し、ひと口ごとに茶葉の変化を感じられます。こうした茶器の役割を知るだけで、同じ台湾茶でも驚くほど奥行きが増し、九份の茶樓で過ごす時間がより豊かなものへと変わります。
阿妹茶樓(アーメイチャーロウ)の人気メニュー
阿妹茶樓では、九份らしい絶景とともに味わう台湾茶が主役。香り高い茶葉と素朴な茶菓子が、旅の時間をゆるやかにほどいてくれます。
お茶セット(茶葉+お菓子付き)の内容
阿妹茶樓の定番といえば、ほとんどの観光客が選ぶお茶セット。高山茶を中心にした茶葉がたっぷりと用意され、急須に入れた茶葉だけで数煎は楽しめるほどのボリュームがあります。最初の1杯はスタッフが丁寧に淹れてくれるので、茶海の扱い方や聞香杯の香りの楽しみ方も自然と身につきます。
添えられるお菓子は、黒糖餅や胡麻煎餅、干し梅、落雁のような緑豆糕など素朴な味が中心で、どれも台湾茶と驚くほど相性が良いものばかり。香りと甘みが交互にほどけていく贅沢なセットです。
店内・テラス席で楽しむ食事メニュー
お茶だけでなく、軽めの食事メニューも密かな人気です。店内席は落ち着いた雰囲気で、赤い提灯が揺れる外観を眺めながら過ごすひとときは、まるで時間が緩やかに流れていくよう。テラス席では、海へ続くような九份の景色を前に、温かい茶葉料理や簡単なスナックを楽しむことができます。
喧騒を離れた山の風がふっと吹き抜け、台湾茶の香りと混ざり合う瞬間は、この場所ならでは。旅の途中で深呼吸したくなるような、そんな時間を過ごせます。
お土産に人気の茶葉や茶器
阿妹茶樓の魅力を持ち帰りたい人には、店内で購入できる茶葉と茶器がよく選ばれます。高山茶や金萱茶といった定番茶葉はもちろん、香りを重視した茶藝館向けのブレンドなども揃い、自宅で九份の空気を再現するきっかけになります。
また、急須や聞香杯、茶海といった茶器は、手に馴染むような素朴な質感が人気。使うほど愛着が増し、旅の記憶を静かに呼び起こしてくれます。阿妹茶樓での体験をそのまま持ち帰りたい──そんな思いに応えてくれる品がそろっています。
お茶の淹れ方・飲み方
阿妹茶樓では、茶葉そのものの香りや湯の温度の変化を感じながら淹れる“工夫茶”のスタイルで楽しむのが基本。初めてでも、静かに深まっていく香りに心がほどけていきます。
工夫茶の基本(急須・聞香杯の使い方)
工夫茶は「香りを味わい、湯を重ねて変化を楽しむ」ことに重点を置いた淹れ方です。まずは急須と湯呑み、聞香杯(香りを楽しむ細長い杯)を温めるところから始まります。温まった急須に茶葉を入れ、お湯をそっと注ぎ、最初の湯は“茶葉を洗う”ためにすぐ捨てます。
本番の1煎目は短めに抽出し、茶海に移して均一の濃さに。聞香杯に注いだ茶を湯呑みに移したあと、空になった聞香杯を手に取り、立ちのぼる香りをゆっくり味わう──それが工夫茶ならではの儀式のような瞬間です。
阿妹茶樓スタッフが日本語で教えてくれる淹れ方
阿妹茶樓では、スタッフが最初に必ずお手本を見せてくれます。ほとんどのスタッフが簡単な日本語に対応しているため、「今は温めていますね」「次は40秒ほど待ちます」と、手元の動きを言葉で補いながら丁寧に教えてくれるのが心強いところ。
急須から茶海へ一気に注ぐ独特の所作や、聞香杯への注ぎ方、1煎目と2煎目の蒸らし時間の違いまで、まるで小さなレッスンのように寄り添ってくれます。観光客が多い店ならではの優しさで、慣れない工夫茶も自然と身についていくのが魅力です。
初心者でも美味しく淹れるためのポイント
初めて工夫茶に挑む人でも迷わないコツがあります。まず“急がないこと”。茶葉はゆっくりと湯を含んで開いていきます。慌てず、香りの変化を楽しむくらいの気持ちで向き合うと、それだけで味がまろやかになります。次に、蒸らし時間を少しずつ伸ばすこと。1煎目は短め、2煎目から10秒ずつ長くすると茶葉の個性が引き立ちます。
そして最後に、聞香杯の香りを必ず確かめること。香りの余韻を感じるだけで、同じ茶葉でも味わいがぐっと深まります。特別な技術はいりません。ほんの少しのゆとりが、美味しい一杯を育ててくれます。
その他九份のおすすめ茶坊
九份には阿妹茶樓だけでなく、個性あふれる茶樓や茶藝館が点在しています。静けさに浸りたい人も、写真を撮りたい人も、それぞれに寄り添う“お気に入りの一杯”がきっと見つかります。
海悦楼(海悅樓景觀茶坊):阿妹茶樓の外観を撮影できる名店
阿妹茶樓の外観をじっくり眺めたい──そんな願いを叶えてくれるのが、すぐ隣に位置する海悦楼(海悅樓景觀茶坊)です。店内からは赤提灯が連なる阿妹茶樓を真正面に望むことができ、夕暮れから夜にかけての灯りがともる瞬間は息をのむ美しさ。
テラス席に座れれば、九份の街並みと海が重なる“九份らしい絶景”を静かに味わえます。観光客の多さに圧倒されがちな九份ですが、ここでは落ち着いて写真を撮れる時間が流れています。阿妹茶樓を“眺めて楽しむ”という贅沢を味わいたい人に、特におすすめしたい茶楼です。
九份茶坊・水心月茶坊など人気の茶藝館
九份で茶藝館文化をしっかり体験したい人には、九份茶坊や水心月茶坊のような老舗が向いています。どちらもアートと茶芸が自然に溶け合う空間で、ゆっくりと茶葉の香りが漂う静寂が心地よい場所です。九份茶坊は古民家を改装した趣ある茶樓で、棚に並ぶ茶器やアート作品が訪れる人を迎えてくれます。
一方、水心月茶坊はレンガ造りの外観とアトリエのような内装が特徴で、選び抜かれた台湾茶を落ち着いた雰囲気の中で味わえます。
“喧騒から少し離れた九份”を感じたいなら、この2軒は外せません。
個性派の茶楼・カフェ(份茶坊・吾穀茶糧 など)
より個性的な茶樓やカフェを探すなら、份茶坊や吾穀茶糧のようなスタイルの違う店にも足を運びたいところ。份茶坊は、九份が昔から持つノスタルジックな世界観を大切にしながら、若い旅人がふらりと立ち寄れる気軽さも残した茶楼です。対して吾穀茶糧は、台湾らしい雑穀ドリンクや独自のお茶メニューが楽しめる“新しいタイプの茶文化スポット”。
木の温もりが漂う店内はどこか穏やかで、観光地の中でもほっとひと息つける空気をまとっています。九份の茶文化は一つではなく、訪れる店によってまったく違う表情を見せてくれる──その広がりを感じられるのが、これら個性派の茶楼です。
まとめ
九份という小さな山あいの街には、海から吹く風と石段のざわめき、そしてどこか懐かしい灯りが共存しています。阿妹茶樓を中心に、茶葉の香りや茶芸の所作をゆっくり味わえる茶樓が点在し、どの店にも“九份にしかない時間”が流れていました。
観光客でにぎわう街でありながら、急須から立ちのぼる湯気を眺めていると、自分だけの旅のリズムが戻ってくるような感覚があります。もし台湾旅行で心に残る一杯を探しているなら、九份の茶藝館はその答えのひとつになるはずです。
◇経歴
証券会社・映像制作会社を経て独立。現在はWebライターとして英語学習、旅行、ライフスタイル分野を中心に執筆。実務での英語メール対応や、海外企業とのやり取りも経験。
◇海外渡航経験
旅行でヨーロッパ各国、東南アジア諸国、アメリカを訪問。タイや韓国、アメリカでは現地企業とのやりとりや実務経験もあり、英語でのビジネスメール対応や資料作成など、実践的な英語を使う場面も経験しています。
◇自己紹介
大学時代に東南アジアをバックパッカー旅して以来、旅がライフワークに。ギリシャでの結婚式をはじめ、アジア・欧州・アメリカなどさまざまな国を訪れてきました。