フィリピンと日本にはどちらも義務教育がありますが、教育制度や学ぶ期間はずいぶん異なります。日本では9年制が取られている一方で、フィリピンでは2012年からK-12制度の導入が開始され、12年制に拡大されました。多様な文化背景を持つフィリピンでは、教育内容や言語・科目構成にも特徴的なものがあります。
本記事では、日本との制度の違いや義務教育の仕組みをポイント別に比較し、フィリピンの教育事情をわかりやすくご紹介します。
フィリピンの義務教育制度:K-12制度とは?
フィリピンの義務教育制度は、K-12制度と呼ばれる教育体系に基づいて構成されています。K-12とは、「Kindergarten(幼稚園)」と「Grade 12(高等学校の12学年)」を組み合わせた呼び方です。この制度の特徴は、義務教育期間が合計13年間と長く設定されている点です。
具体的には、幼稚園1年、小学校6年、高校6年(前半4年がジュニアハイスクール、後半2年がシニアハイスクール)で構成されます。この1-6-6の構造により、フィリピンでは義務教育を終了する時点の年齢が18歳となります。
日本の義務教育は小学校6年間と中学校3年間の計9年間なので、フィリピンの義務教育は日本よりも4年間長いのが特徴です。
K-12制度は2012年に導入され、従来の10年間の教育課程から改められました。幼児教育が義務化されたことで、就学前に子供たちが基礎的な教育を受ける環境が整えられています。また、中等教育が6年に延長されたことで、より専門性の高い教育を受ける機会が提供されています。
この制度の目的は、子供たちの学習基盤を強化し、国内外での競争力を高めることにあります。ただし、教育資源の不足や貧困による中退など、制度運営上の課題も指摘されています。
義務教育の年齢と学年構成
フィリピンの義務教育制度は、幼稚園1年、小学校6年、高校6年の合計13年間で構成されています。この1-6-6制は「K-12制度」と呼ばれ、日本よりも4年間長い特徴があります。フィリピンの義務教育は6歳から18歳までを対象としており、幼稚園から高校まで全ての子供に教育を受ける権利が与えられています。
フィリピンの学年構成は、日本のような3年制の中学校に相当する教育段階が存在せず、高校の前半4年間がこの役割を果たしている点が特徴的です。このため、教育段階の名称や構造が日本とは異なります。
幼稚園は1年間の基礎教育で、小学校では基礎的な学力養成が中心です。高校6年のうち前半4年のジュニアハイスクールでは、基礎的な知識の深化が図られ、残りの2年間のシニアハイスクールでは専門的なスキルや準備教育が行われます。
年齢別の教育内容と日本との比較
まず日本とフィリピンの幼児教育は、その目的や方法において特徴的な違いがあります。日本では、就学前の子どもが幼稚園や保育園で教育を受けることが一般的で、幼児期の教育は社会性を重視していて、遊びを通じて基本的な生活習慣や対人スキルを養うことが目的となっています。
一方、フィリピンでは義務教育の一部として幼稚園が1年間設けられており、就学前教育が公式に義務化されています。この期間中、英語や文字、数字の基礎知識を学ぶなど、より学業的な準備が重視されていることが特徴です。フィリピンのカリキュラムでは早い段階から宗教教育も取り入れられ、キリスト教の価値観を基盤とした道徳教育が行われます。
初等教育においても、日本とフィリピンでは科目や指導内容に差があります。日本の小学校では6年間の義務教育が行われ、国語、算数、理科、社会などの基礎科目に加えて、道徳や総合的な学習の時間が設けられています。また、異年齢の交流や地域活動も強調されており、子どもたちの全人的な成長を目指しています。
一方、フィリピンの義務教育期間である初等教育は6年間で、学校の体制にもよりますが重点科目の多くが英語で指導される点が特徴です。タガログ語やその他各地域の言語を活用した授業も低学年で行われますが、3年生以降は英語が主体となります。
中等教育では、日本とフィリピンの進学率や進路の選択肢に大きな違いがあります。日本では中学校の3年間は義務教育に含まれており、その後の高校進学は選択制で、ほとんどの生徒が高校へ進学します。一方、フィリピンの中等教育は高校6年間が該当し、そのうち前半の4年間がジュニアハイスクールとして位置づけられています。
さらに高校では、生徒が自分の興味や将来の進路に合わせて4つの「トラック」から専門分野を選択することができます。これには、大学進学を目指す「アカデミック」、技術や生計向上スキルを学ぶ「テクニカル・ボーケーショナル・ライブリフッド(TVL)」、スポーツ、芸術・デザインなどがあります。このTVLトラックが、フィリピンの職業訓練と義務教育を結びつける重要な部分になります。生徒はここで実践的なスキルを習得し、卒業後すぐに就職したり、高等職業訓練に進んだりする道が開かれています。
また、義務教育以外にも、フィリピンには技術教育技能開発庁(TESDA)などが提供する様々な職業訓練プログラムがあります。これらのプログラムは、特定の技術や専門知識を短期間で習得することを目的としており、国内外での就職を目指す人々に広く利用されています。義務教育段階でのTVLトラックと合わせて、国を挙げて国民のスキルアップや雇用機会の創出を図っている姿勢がうかがえます。
公立と私立学校の違いと教育格差
フィリピンの教育環境には、公立学校と私立学校という2種類の異なる教育機関が存在します。
まず、フィリピンの公立学校では、一般家庭向けの無償教育を提供しており、生徒数は私立学校に比べて圧倒的に多いです。公立学校では授業料がかからないため、経済的に余裕のない家庭の子どもたちでも義務教育を受けることが可能です。一方で、主に裕福層の家庭の子どもたちが通う私立学校では、授業料が高額であるため、最新の教育資源や設備が揃っています。
また、カリキュラムや教育内容においても、公立と私立学校の間に違いがあります。公立学校では、授業が地元の言語で行われ、基礎的な読み書きや数学に重点を置くことが多いですが、私立学校では幼少期から英語教育が進み、英語を使った授業が行われることが一般的です。そのため、私立学校に通った子どもたちは、国際社会で活用できるスキルをより身につける機会に恵まれると言われています。
義務教育期間が日本よりも長く設計されているフィリピンの義務教育制度ですが、実際にはこのような環境の違いにより、公立学校と私立学校では学力の格差が広がる傾向にあります。公立学校の生徒たちには貧困や中退といった背景が多く、特に義務教育の高学年になるにつれ、様々な経済的・社会的な要因で学校を辞めざるを得ない子どもも少なくありません。この教育格差はフィリピン全体の社会構造にも影響を与えており、教育資源の平等な配分が大きな課題となっています。
教育制度改革の成果と課題
フィリピンの教育制度は2012年に大きな改革が行われ、K-12制度への変更が行われました。この改革は、フィリピンの教育レベルを国際基準に合わせることを目的としており、子どもたちがより深い基礎知識を身に着け、進学や就職時の選択肢を増やすことが期待されました。
しかしながら、この改革にはさまざまな課題が残っています。特に、教育資源の不足は依然として深刻な問題です。多くの公立学校では教室のスペースや教科書の数が不足しており、生徒一人ひとりが十分な学びの機会を得られない状況があります。
また、貧困層の家庭では、たとえ義務教育であっても通学に必要な交通費や教材費が負担となり、中退する子どもが多い実情もあります。さらに、教師の数や質の向上も課題として挙げられ、特に農村部や地方では指導環境に大きな格差が生じています。
加えて、OECDによるPISA(生徒の学習到達度調査)では、フィリピンの識字能力がアジア圏内でカンボジアに次いでワースト2位と評価されるなど、学力の向上には依然として大きな壁があります。
一方、成果が見られる分野もあります。例えば、英語教育の推進により、高校卒業時には多くの生徒が英語を使いこなせるようになる点は、フィリピンのグローバル人材の育成に役立っています。また、幼児教育が義務化されたことにより、より多くの子どもたちが早い段階から教育を受けるようになりました。このように、改革には明らかな成功と未解決の課題の両面が見られます。
フィリピンの教育制度改革は、国際的な教育基準に対応し、長期的な国の経済成長と発展を目指した一歩であると言えますが、その効果を最大化するためには、教育資源の拡充や地域間格差の解消といった根本的な課題への対応が求められています。今後の取り組み次第で、この改革が本来の目的を果たし、フィリピンの子どもたちがさらに明るい未来へ向かうことが期待されています。
まとめ
いかがでしたでしょうか?フィリピンの義務教育が、日本とは異なるK-12と呼ばれる13年間の制度であることをご紹介しました。
日本の9年間という期間や、小・中学校という区分に慣れている私たちにとって、フィリピンのシステムは新鮮に映ったかもしれません。単に年数が違うだけでなく、それぞれの国が子どもたちの教育に何を重視しているか、社会全体でどのように教育を捉えているかといった文化や背景の違いも映し出されています。
今回の記事が、皆さんが世界の教育や異文化について考えるきっかけとなれば幸いです。

◇経歴
高校は日本国内の文部科学省グローバル教育指定校に通学。
高校卒業後、タイの国立タマサート大学に1年間正規留学。
その後、転入先であるチェコの国立マサリク大学で政治とメディア学を専攻。
イギリスの企業でマーケティングインターンを経験し、その後ジュニアマーケターとして採用され、英語での実務経験もあります。
◇資格
・TOEIC 800(高校2年次取得
・ IELTS 6.5(高校3年次取得
・ CEFR C1 (大学2年次取得)
◇留学経験
・アイルランド・ダブリンで2週間のホームステイ (高校2年次)
・タイ国立タマサート大学(1年間正規留学)
・チェコ国立マサリク大学(現在3年目で政治とメディア学専攻)
◇海外渡航経験
・25カ国訪問済み(例:ギリシャ、ベトナム、アルバニアなど)
・現地での留学やインターンシップの経験あり
・現在は30歳までに30カ国訪れることが目標
◇自己紹介
旅行が大好きで、異文化交流や新しい経験を大切にしています。これまでの経験を活かし、留学の良さを伝えていけたらと嬉しいです。