アメリカは世界でも教育レベルの高い国だと言われています。ハーバード大学やスタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学など、世界有数のトップスクールを目指して、世界中から学生が集まっています。しかし、近年はアメリカの大学進学率が低下傾向にあり、大学に進学する意義や価値を見直す動きも出てきています。
今回の記事では、アメリカの大学進学率、教育システムの特徴、そして最近の進学率低下の背景について、詳しく解説します。
アメリカの大学進学率:世界ランキング
かつて、アメリカの大学進学率は世界でもトップクラスにありました。しかし、最近は他の国の大学進学率が伸びていることもあって、そのランキングが低下していることがわかります。
2023年にOECDが発表した国別のデータによると、アメリカの大学進学率は79.4%で世界で27位となっています。韓国は103.3%、香港100.5%、シンガポール98.0%と、他の先進国と比較するとやや見劣りする数値となっています。アジアでは、大学進学が社会的に成功するための重要なステップだと認識されている一方で、アメリカではキャリアを形成するための1つの手段だと認識されているので、大学に進学しないという選択肢も一般的です。
アメリカにおける大学進学の特徴
学力テストによる入試を重視する日本とは違って、アメリカの進学には特徴があります。ここではアメリカの大学進学における特徴についてご紹介します。
進学先の多様性
アメリカには4年制の大学だけでなく、2年制のコミュニティカレッジが存在します。4年制大学の多くは、非常に競争率の高い一部の名門校を除いて、門戸が広く開かれています。また、コミュニティカレッジのほとんどは、出願すれば100%合格できる「Open Admission」というポリシーを掲げています。このように、アメリカでは志願者のほとんどが大学に入学できて、自分の目標に応じて進学先を選択できる教育システムとなっています。
入学よりも卒業が難しい
「アメリカの大学は、入学するよりも卒業するのが大変」とよく耳にします。多くの大学で学生を広く受け入れているので、入学するのは比較的簡単です。しかし、入学後は毎日大量の課題が出され、授業はディスカッションやプレゼンテーションなど、主体的に行うものが多いので、しっかりと準備する必要があります。大学卒業時の成績が就職にも大きく影響するので、入学後も必死に勉強する必要があります。サークル活動やアルバイトに精を出す日本の大学生とは大きく異なる点です。
リベラルアーツ教育
日本の大学の場合、入学時に専攻を決めて、早い段階で進路を固定するのに対して、アメリカの場合、複数の分野を学びながら自分に適した専攻を探していく柔軟な教育システムになっています。幅広い分野の学問を学びながら、自分の将来の方向性をじっくり考えていくこの仕組みは「リベラルアーツ教育」と呼ばれています。この仕組みを通して、特定の専門知識だけでなく、問題解決能力や創造力、論理的思考力を身につけられるのがアメリカの大学の魅力です。
課外活動を重視する
アメリカの大学への進学においては、課外活動も非常に重視されます。ボランティア、スポーツ、芸術、リーダーシップ経験など、多角的に評価されて、総合的な人物像に基づいて入学が決定されます。これにより、勉強一筋の学生だけではなく、人間的に魅力のある学生や、さまざまな考え方を持つ学生が、学習の機会を得ることができます。
アメリカの大学教育の特徴
アメリカの大学には、日本の大学とは異なる魅力がたくさんあります。ここでは、アメリカの大学教育の特徴についてご紹介します。
グローバルな環境
アメリカの大学では、多様性を重視して留学生の受け入れが積極的に行われています。さまざまな文化的背景を持つ学生たちと一緒に、グローバルな環境で学生生活を送ることは、国際的な視野を広げることにつながります。グローバル化が進む現代で、こうした環境で学ぶことは、社会に出てから重要な財産となります。
豊富な選択肢
アメリカには、なんと4,000校以上の大学があり、その特徴もさまざまです。ビジネス、工学、芸術、スポーツなど、それぞれの大学が独自の色を提供しています。専攻の分野も、ビジネス、ファッション、映画、音楽、環境科学、データサイエンスなど幅広いので、自分の興味や目標に適した大学を見つけやすくなっています。
また、まずコミュニティカレッジで一般教養や専門科目を学び、自分が学びたいことを見つけてから、4年制大学に編入するというケースも一般的です。
4年制大学卒業後は、より専門的な知識を得ることを目的として、大学院へ進学する学生も存在します。医学、建築学、法学、工学など、資格が必要となる分野では、大学院への進学が必須または推奨されています。
専門性を高める教育
アメリカの大学の特徴は、専門性を高める教育が行われていることです。学生が興味を持っている分野を徹底的に深く学び、授業ではディスカッションやプレゼンテーションなど、学生が主体的に学ぶ環境が整っています。また、多くの大学は世界最先端の研究施設を備えていて、学生のうちから研究プロジェクトに参加する機会があります。それ以外にも、提携する企業と連携することによって、インターンシップやフィールドワークなど実践的な経験を積む機会も豊富に提供されています。こうした教育システムによって、学生たちは実践的なスキルを身につけて、専門性を高めていくことができるのです。
アメリカの大学進学率が低下してるってほんと?
高校卒業後に大学へ進学する学生は、日本では約6割、アメリカでは約7割となっています。しかし、特に2020年以降、アメリカの大学進学率は低下傾向にあると言われています。現在のアメリカの進学事情はどうなっているのでしょうか。
学費の高騰
アメリカにおける大学進学率低下の背景には、学費の高騰があります。アメリカの大学の学費は年々上昇していて、学生ローンの負担が深刻化しています。この経済的な負担が、学生たちに大学進学を躊躇させる要因となっています。特に、経済的に困難な状況にある家庭の学生に、その傾向が強く見られます。
働き方の変化
アメリカでは、雇用市場の動きに連動して大学進学率も増減する傾向にあります。ここ数年アメリカでは、パンデミックによる労働力不足の状況がありました。即戦力として就職できることもあり、高校卒業後は大学に進学するよりも、レストランや建設現場、製造工場、倉庫といった、大学教育の必要がない職場で働くケースが増加しました。これは、経済的な負担を背負ってまで大学教育を受けるよりも、実際に現場で働いて収入を確保することにメリットを感じる学生が増加したことによるものです。
オンライン教育の普及
パンデミックの時期に、オンライン教育の普及が進んだことで、大学に進学する必要性が低下しました。特にIT分野を中心に、必ずしも大学に通わずに、高い収入のポジションに就くケースも増えて、実務経験やスキルが重要視されるようになって来ています。その結果、一部の学生は大学に進学するよりも、就職して実務に携わる道を選ぶようになっています。
その一方で、ここ1、2年は大学入学者数の大幅減少に歯止めがかかって来ているともいわれています。2024年は、私立大学、州立大学、コミュニティカレッジのすべてで新入生が増加して、全米で約234万人の学生が大学に入学しました。今後も引き続き、この増加傾向が続いていくかどうかは注視が必要です。
アメリカの大学入学者数の推移
アメリカの大学入学者数は、過去数十年間増加傾向にありましたが、2020年以降は減少傾向にあります。ここでは、CTEEレポートをベースに、入学者にどのような傾向があるのか見ていきましょう。
専攻別の入学者数
4年制大学で人気のある専攻を見ると、ビジネスプログラムやコンピュータサイエンスの入学者数が増加傾向にあります。これは、こうした分野で拡大する雇用の機会を反映していると考えられます。一方、医療専門職、生物科学、工学など、以前から人気があった専攻は減少傾向にあります。
属性別の入学者
パンデミックで落ち込んだ大学入学者数ですが、男性の入学者数は改善傾向にあります。一方で、女性の入学者数は減少しています。人種別で見ると、増加率が高いのはラテン系で、次いでアジア系、ネイティブ・アメリカン、黒人となっています。また、パンデミックによる渡航制限やビザ発給の制限によって、留学生の数は減少傾向にありましたが、2023年以降は再び回復傾向にあります。
地域別入学者
アメリカ北東部、中西部の各州では、大学入学者数は大きく減少傾向にあります。反対に、アメリカ西部と南部では、わずかに増加しています。
まとめ
アメリカの大学進学率は、かつて世界でもトップクラスでしたが、近年は学費の高騰、パンデミックの影響、労働市場の変化などによって、進学の動向にも変化が生まれつつあります。しかし、依然としてアメリカの教育は質が高く、学生に多様な学習のチャンスを提供していて、世界中から学生たちが集まる場所として機能しています。
学生たちが、自分に適した進路を選択できる環境こそが、アメリカの高等教育の強さだと言えるでしょう。

◇経歴
英語圏での生活、業務歴10年以上
◇資格
TOEIC900点代後半
◇留学経験
ニュージャージーへ1年間
◇海外渡航経験
シンガポールで2年、台湾で3年、タイで2年仕事してました。
◇自己紹介
英語ができれば世界が広がります!
海外生活経験を活かして、楽しい部分だけではなく、リアルな生活をお届けします!