イギリスのパブ文化完全ガイド:楽しみ方、定番メニュー、注文、マナー

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イギリスの生活に深く根付くパブ(Public House)は、単なる酒場ではなく、何世紀もの歴史を持つ地域の「公共の家」、すなわち社交の中心地です。

しかし、初めて訪れる旅行者にとって、パブの独自の注文方法(都度払い・ラウンド制)や、多彩なエール、未成年者の利用ルールなどは戸惑いの種かもしれません。

この記事では、パブの歴史、種類、そしてフィッシュアンドチップスなどの定番料理から、現地で役立つ注文フレーズやマナーまでを徹底解説します。

 

 

 

飲まなくても楽しい!イギリスのパブ

イギリスの文化として欠かせないものの1つはパブ文化です。パブは「公共の家」という意味のパブリックハウス(Public House)の省略語で、日本の居酒屋に近い社交の場です。

元々パブの起源は、2,000年前にローマ人がイギリスに侵攻した際の公共食堂「タベルナ」に遡ると言われています。中世には旅人のための宿泊所や集会所の機能も備えた宿屋・居酒屋(タバーン)として発展しました。そして、バーカウンターがあり、樽詰めのドラフトビールをハンドポンプから注ぐ、現在のパブの形が定着したのは19世紀初めです。この経緯から、「Tavern」と名前に付くパブも現在でも多く見られます。

パブは公共の家の名の通り、町の社交場として、地域のコミュニティを支える場所として発展してきました。現在、イギリス国内には約41,700軒のパブがあると言われています(2025年予測)。近年、事業税や人件費の上昇といった理由から多くのパブが閉店に追い込まれていますが、「パブに行かずしてイギリス文化は語れない」というほど、パブはイギリス人の生活に深く根付いています。

 

パブの多様な役割と種類

パブはアルコールを提供する場所ですが、日本の居酒屋と異なり、多様な役割を持っています。

  • 終日利用できる飲食店: お昼から営業しており、アルコールを注文せずとも、家族で伝統的な「パブランチ」を楽しむことができます。場所によっては犬も含めたペットの同伴が可能な場合も多いです。

  • 社交の場: お酒だけでなく、お茶やコーヒーを提供するパブも多く、友人や仲間と会話を楽しむ場として利用されます。

  • 観戦スポット: フットボールやラグビーなど、イギリスで人気のスポーツの試合を大型テレビで観戦し、地元のファンと一緒に盛り上がるのはパブならではの醍醐味です。

一口にパブと言っても、その機能や雰囲気によっていくつかの種類に分かれます。

  • トラディショナルパブ: 木造の古めかしい内装で、数百年の歴史を持つ場所も多く、昔ながらの雰囲気を保つパブです。

  • スポーツパブ: 大きいスクリーンを備え、スポーツ観戦がメインで楽しめるパブです。

  • ファミリーパブ: キッズメニューが充実し、家族連れでの食事がしやすい、レストランに近い雰囲気のパブです。

  • ガストロパブ: ガストロノミー(美食)の略で、食事メニューの質にこだわり、レストランのように充実した料理を提供する、近年主流になっているパブです。

 

定番メニュー:イギリスのパブ料理

パブの定番メニューは、気軽に楽しめるイギリスの伝統料理です。ここでは代表的なものをご紹介します。

 

パブ飯の代表格

  • フィッシュアンドチップス: 英国飯の代表です。タラなどの白身魚のフライとフライドポテト(チップス)を添えた料理です。イギリスではフライドポテトのことを「チップス(Chips)」と呼びます。本場の食べ方としては、塩と胡椒に加え、モルトビネガー(お酢)をたっぷりかけて食べるのが一般的です。

  • パイ料理: イギリスではパイを使った料理が多くあります。

    • ステーキパイ:パイ生地の中にビーフシチューが入ったパイ。

    • フィッシュパイ:魚にホワイトソースを絡め、マッシュポテトを上にかけたもの。

    • シェパーズパイ:ラムとマトンの挽肉を使った料理で、パイ生地の代わりにマッシュポテトをかぶせたもの。

    • コテージパイ:牛挽肉とマッシュポテトのパイ。

  • サンデーロースト: その名の通り、日曜日に食べる定番の肉のロースト料理です。ローストビーフの他、豚、羊、鶏のお肉のローストが選べます。ローストしたジャガイモや人参などの野菜、そして甘くないシュー皮のようなヨークシャープディングがワンプレートに盛られ、全体にグレイビーソース(肉汁ソース)がかけられます。日曜の午後にワインと共にゆっくりと楽しむ、家族団らんの料理です。

  • オールデー・ブレックファスト: イギリスの伝統的なフルブレックファストを一日中提供するパブが多くあります。目玉焼き、ベーコン、ソーセージ、ハッシュポテト、グリルトマト、ベイクドビーンズなどが乗った、ボリューム満点の一皿です。ガストロパブなどでは、洗練された朝食メニューが用意されていることもあります。

  • プラウマンズランチ: 「農夫のランチ」と名のついたパブランチの定番です。パン、チーズ数種、コールドミート(ハムやパテ)、ピクルスがのったプレートで、自分でオープンサンドにして食べます。

  • フィッシュケーキ: 白身魚にマッシュポテトとハーブを加えて作った、イギリス風の魚のコロッケです。

 

多彩な飲み物:パブでの楽しみ方と注文

パブの楽しみはなんといっても多彩なドリンクです。カウンターにはスタウトやエール用のタップ(注ぎ口)が並び、注文を受けてから注いでくれます。

 

パブでのビールの種類と飲み方

ビールは「エール」「スタウト」「ラガー」の3つに分けられますが、イギリスの原産はエールとスタウトです。

  • エール(Ale): 大麦を主原料とし、上面発酵させたビールです。色や香り、味わいをじっくりと楽しむため、常温で飲むことが特徴です。イギリスではクラフトビールとして親しまれ、特にホップの苦味がほんのり効いたものを「ビターエール」または「ビター」と呼びます。日本のビールのように一気に飲むのではなく、ワインのように味わいを楽しむのが英国流です。

  • スタウト(Stout): エールの一種で、黒くなるまでローストした大麦を使った黒ビールです。アイルランド産のギネスが有名で、これも常温で飲みます。最近ではコーヒー風味のギネスなども登場しています。

  • ラガー(Lager): 下面発酵で作られたビールで、日本のビールやハイネケンなどの輸入ビールがこれにあたります。こちらは冷やして飲むのが一般的です。

 

ビール以外のパブの定番ドリンク

  • サイダー(Cider): 日本でいう「サイダー」は炭酸飲料ですが、イギリスのパブでサイダーを頼むと、りんごを発酵させたアルコール飲料(リンゴ酒)が出てきます。アルコール度数は5~8%程度のものが多く、リンゴの甘味と炭酸の爽やかさから、ビールが苦手な人にも非常に人気があります。

  • シャンデイ(Shandy): ビールとレモネードやジンジャーエールなどの炭酸飲料を半分ずつあわせた、飲みやすいカクテルです。

  • ピムス(Pimm's): イギリスを代表するジンベースのカクテルで、果物やハーブが混ざっています。レモン、リンゴ、キュウリ、イチゴなどを加えてレモネードで割るのが定番で、夏に好んで飲まれます。

  • ジン&トニック(Gin & Tonic): ジンにトニックウォーターを加えて作る定番カクテルです。

 

注文とお会計の基本(席の確保から支払いまで)

パブでの注文方法は、日本の居酒屋とは異なる独自のシステムです。

  1. 席の確保: 多くのパブは自由席制(一部、店員に案内されるレストラン形式もあります)。入店したらまず空いている席を確保し、席番号(テーブルに記載)を覚えます。荷物は連れの人に預けるか、貴重品は必ず身につけてカウンターへ向かいましょう。

  2. カウンターで注文と支払い: パブでは基本的にカウンターに行き、スタッフに直接オーダーします。飲み物と食べ物をまとめて注文し、その場でお会計を済ませる「都度払い」が一般的です。

  3. 提供方法: 飲み物はその場で受け取って席へ戻ります。食べ物はホールスタッフが席番号を頼りにテーブルまで運んでくれます。

  4. 単位: ビールは1パイント(約568ml)またはその半分のハーフパイントで注文します。

 

知っておきたいパブのマナーとルール

イギリスのパブを気持ちよく利用するために、いくつかのルールとマナーがあります。

 

パブ利用の重要なマナー

  • ラウンド制(Round of drink): 複数人で飲む場合、「ラウンド制」という文化があります。これは、グループの一人が全員分の飲み物をまとめて注文し、飲み終わったらグループ内の違う一人が全員分を注文する、というシステムです。これにより、全員が交互に奢りあう形となり、スマートな飲み方ができます。

  • スタッフの呼び方: 日本のように離れたところから大声で「すみませーん!」と叫ぶのはマナー違反です。スタッフとアイコンタクトを試みるか、スタッフが近づいてきたときに軽く片手を上げるなどで注意を引きましょう。

  • 騒がない: 「紳士の国」イギリスでは、気分が高揚しても、大きな声を出したり騒いだりするのは好まれません。周りの会話を遮らないよう、自制心をもって利用しましょう。

  • 全店禁煙: イギリスのパブは、店内は全店禁煙です。喫煙は定められた屋外スペースを利用してください。

  • チップ制度:

    • カウンターでの注文・都度払いの場合はチップは不要です。

    • ガストロパブなどのレストランエリアでテーブルサービスを受け、後でまとめて会計をする場合は、総計の10%ほどをチップとして上乗せするのが一般的です。

 

未成年者のパブ利用と法律

イギリスでは飲酒に関する法律が厳しく定められています。

年齢

飲酒に関する法律

18歳以上

アルコールを自分で購入し、どこでも飲むことが可能。

16歳・17歳

大人が同伴し、食事と一緒であれば、ビール、ワイン、サイダーのいずれかのみを飲むことが可能(ただし購入は不可)。

16歳未満

大人が同伴していれば入店可能な場合が多いが、アルコールは飲めない。

18歳以上の方でも、店側から年齢確認を求められることがあるため、パスポートなどの身分証明書(ID)を携帯することを強くおすすめします。

 

英語でオーダーしてみよう!便利なフレーズ集

パブではカウンターで注文するため、簡単な英会話は必須です。

場面

便利な英語フレーズ

意味・解説

注文時(定番)

Can I have a pint of Guinness, please?

ギネスを1パイントください。"A pint of..."で「1パイントの~」という意味になり、最もシンプルで丁寧な注文方法です。

注文時(代用)

I'll have that one.

それにします。(メニューなどを指差しながら)"I'll have"は「~をください」という注文の意思表示になります。

量を指定

Can I get a half pint of Lager?

ラガーをハーフパイントください。

おすすめを尋ねる

What bitter do you have?

どんなビター(エール)がありますか?

おすすめを尋ねる

I'd like to have bitter. What's your recommendation?

ビターが飲みたいのですが、おすすめは何ですか?

地元のものを尋ねる

Which one is the local bitter?

地元のビター(エール)はどれですか?

お釣りをチップに

Keep the change.

お釣りはとっておいてください。(チップとして)

裏スラング

I'm heading down to the local.

いつものパブに行くよ。パブのことを愛情を込めて「ローカル(local)」と呼ぶことがあります。

 

まとめ

イギリス人にとってパブは、ただお酒を飲む場所ではなく、生活の一部であり、地域コミュニティの中心です。歴史的にも深く、チャールズ・ディケンズやチャーチルなどの著名人が通ったパブも各地に現存しています。

パブは、アルコールを飲まない人も家族も楽しめる飲食店であり、フットボール観戦で熱狂する社交場でもあります。注文方法や未成年者のルールなど、独自のしきたりはありますが、事前に知っておけば心配ありません。

ぜひイギリス訪問の際には、お気に入りの「ローカル」を見つけ、多彩なエールと伝統的なパブ料理を味わいながら、イギリスの文化を満喫してください。

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