
2024年のいじめの認知件数は文科省調査によると732,568件と、前年から約5万件も増加しています。
日本ではテレビや新聞で「いじめ」に関するニュースがたびたび報道されていますが、海外にも同じようにいじめが存在します。いじめの現状や対策方法は、国によって大きく異なります。
今回は、いじめの海外事情や各国のいじめに対する法律、教育現場での対応に関して、日本と比較しながら解説します。
少々重いテーマではありますが成長過程の子供たちへ深刻な影響を与えることなので、各国の取り組みや現状を知り、いじめ防止について考えるきっかけにしてください。
海外のいじめ事情と日本との違い
日本と同様に、諸外国でもいじめは大きな社会問題となっています。しかし、いじめ対策は日本と外国では大きく違う点もあります。
まず、いじめ事情の違いとして、日本ではいじめが起こった時に見て見ぬふりをする「傍観者」となる子どもが多いのに対して、海外ではいじめの被害者と加害者の間に入る「仲介者」が多いことが特徴です。
そして、日本ではいじめに遭った被害者を救うという視点でいじめ対策を行うことが多いのに対して、海外ではいじめをした加害者を繰り返し指導するという対応が多く行われています。
イギリスなどでは「シチズンシップ教育」が必修教科となっており、いじめの加害者を指導するベースとなっています。
シティズンシップ教育とは、地域や学校、仲間の中で、市民の多様なニーズや社会的な課題に対応するために、市民一人ひとりが自分たちの意思に基づいて関係者と協力して取り組む活動です。
シティズンシップ教育では、いじめは民主主義の社会の中で許されない行為と位置付けられています。日本でも、いじめ発生後の対応からいじめ防止へといじめ対策を転換していくために、今後はシティズンシップ教育への取り組みが求められていくでしょう。
諸外国のいじめに対する法律と制度の違い
外国と日本のいじめ事情の違いは前述した通りですが、いじめに関する法律や制度も国によって異なります。いくつかご紹介していきます。
日本
日本では、2013年に初めていじめに関する法律、「いじめ防止対策推進法」が公布されました。
いじめ防止対策推進法において、いじめの定義は「被害を受けた子どもが心身の苦痛を感じているもの」と述べられています。また、いじめによる自殺や不登校といった「重大事態」が起きた際は、教育委員会や学校が調査を行い、保護者らに事実関係を伝えることを義務としています。被害を受けた子どもの立場に立って じめかどうかを判断することで、学校の教員や周囲の大人が「このくらいは大したことではない」「これはいじめではない」と、いじめを見過ごすことがなくなると期待されていました。
しかし、いじめ防止対策推進法が施行された今も深刻ないじめは後を絶たず、教育委員会や学校の対応が遅れたことにより、最終的に子どもがいじめの被害者として、この世を去る事案も相次いでいます。
そこで文部科学省は、「重大事態」に関する報告を自治体から求め、学校側と保護者の関係がこじれたり調査が難航したりした場合には、「いじめ調査アドバイザー」を設定することになりました。いじめ調査アドバイザーは、調査を適切に進めるための助言や支援を行います。
フランス
フランスでは、いじめは犯罪として認識されています。2022年の法改正により、いじめの被害者が自殺あるいは自殺未遂をした場合、最高で懲役10年、罰金15万€(約2370万円)が科されることになりました。
さらに被害者が完全に就学不能となった場合にも、懲役および罰金が科されます。
また、学校内でいじめが確認された場合、校長と自治体首長の判断により加害者をその学校から退学させ、他校へ転校させることができます。
校長は、「特定の生徒による繰り返しの意図的な行動が、他の生徒の安全や健康に悪影響を及ぼす」と判断した場合、「それを止めるためにあらゆる教育的対応を取る責任」があります。
こうした対策の背景には、インターネットを通じたいじめが広がり、それに起因する自殺が相次いだことで、いじめ問題の深刻さが改めて社会に認識されるようになったという事情があります。
実際、フランスでは学校内でいじめを受ける生徒が多く、教育省の統計によれば、毎年約70万人の児童・生徒が何らかの形でいじめの被害にあっているとされています。こうした現状を受けて、アタル国民教育相は、いじめ対策を最重要課題のひとつとして位置づけています。
フランスではその他にもいじめ防止プログラムの実施や専門家によるサポートの強化、教育現場での研修の充実などさまざまな取り組みを行っています。しかし、こういった施策が教師の負担増につながっているのも現状です。
イギリス
シティズンシップ教育が行われているイギリスでの、いじめに対する制度や法律について解説します。
イギリスでも、過去1年間に若者の1/5がなんらかのいじめを受けたことがあるという調査結果が出ており、いじめが多い国となっています。
いじめの中には身体的な暴力や精神的な差別もありますが、近年ではネットによるいじめ、サイバーいじめが特に多く起きています。いじめの増加を問題視し、イギリスでは学校環境で生徒の安全を確保するために、様々な取り組みを行っているのです。
まず、イギリスではいじめを「他人あるいは他のグループを肉体的及び精神的に故意に傷つける個人あるいはグループで繰り返し行われる行動」と定義しています。
イギリスでいじめが社会的な問題としてあげられるようになったのは1990年頃からで、イギリス教育庁から「エルトン・リポート」という、日本の「いじめ防止対策推進法」の前身となる内容の報告書が公開されました。
この報告書では、学校の問題への対処や対策方針、子どもからの相談があった場合は速やかに対応すること、被害生徒とその保護者に対する支援を整備することなどが書かれていました。
そしてこの報告を受けて、イギリスの教育現場では日本にはないような独自の対策が行われています。例えば、校内に監視カメラを多く設置したり、保護者が学校の中を巡回したりして、いじめ発生のリスクを減らす対策がとられています。
また、イギリスの学校では入学する際に、その学校のいじめに対する方針や対策の手順などをまとめた書類を子どもと保護者に渡すこともあるそうです。
アメリカ
「自由の国」というイメージが強いアメリカは、実際に自己主張が強く個性的な子どもも多いため、いじめは少ないだろうというイメージを持つ人が多いかもしれません。
しかし、残念ながらアメリカでもいじめは存在し、大きな社会問題となっています。日本と同じように思春期に入る頃からいじめが多くなりますが、いじめの実情は日本とは異なる傾向にあります。
日本では、クラス全体でターゲットを無視するというようないじめが多く発生しますが、アメリカでは言葉で攻撃したり暴力を振るったりするような、直接的ないじめが多く発生しています。また、他の国と同様にネットやSNS上でいじめが行われる、サイバーいじめも増加傾向にあります。
アメリカの特徴として、性格的におとなしい子がターゲットになりやすいようです。
いじめ問題に対し、アメリカではモンタナ州以外の49州で「いじめ反対法」の条約が制定されています。厳しいところでは、いじめをした子どもは犯罪者として扱われ、犯罪歴がつくこともあります。
いじめ反対法は州ごとの条例なので地域によって対応の違いはありますが、教師はいじめを見つけたら速やかに報告、対応することが義務付けられています。
韓国
韓国ドラマは日本でも人気がありますが、韓国ドラマの中で陰湿ないじめの場面が出てくることは少なくありません。また、韓国のアイドルやスポーツ選手が学生時代にいじめをしていたことが報じられ、大きな話題になったこともあります。
韓国の実際の教育現場では、学校でいじめが起きた際に審議会を開き、いじめの事実確認を行ってから加害者への処分を決めるそうです。
いじめ行為に対する処分内容は9段階に分かれており、最も軽いものは被害生徒に対して謝罪文を提出するというもので、最も重いものは高校生に限られますが退学処分です。
処分の中には、校内や社会的なボランティア活動、カウンセリングを受ける、出席停止、別のクラスに異動、転校なども含まれます。
日本のように各学校でいじめに対する処分を決定するのとは異なり、韓国国内の共通の基準として実施されています。また、いじめ行為に対する処分の記録は、「学生生活記録簿」という成績や個人情報が記載された記録簿に残されます。
2026年からは「学生生活記録簿」に記載されたいじめの加害記録が、大学入試にも反映されることになりました。韓国は日本以上に学歴を重んじる学歴社会なので、いじめ防止への大きな効果が期待されています。
日本、フランス、イギリス、アメリカ、韓国の5つの国でのいじめの学校における対策をご紹介しました。それぞれ対応方法は異なりますが、いじめを大きな問題として捉えていることが分かります。
教育現場の対応とカウンセリングの重要性
いじめの対応には教育現場の協力が必要ですが、その中でもカウンセリングは非常に重要です。
いじめに悩んだときに保護者や学校の先生に相談することももちろん大切ですが、保護者は専門家ではないため直接的な解決にはつながりにくく、学校の先生は課されている職務が多く、いじめ問題に対応しきれないという面があります。
また、いじめの被害で精神科などの専門機関を受診するのはハードルが高いですが、スクールカウンセラーは比較的相談しやすい窓口となっています。
スクールカウンセラーは、多くの場合国家資格である「公認心理師」か心理学系の大学院を修了しなければ取得できない「臨床心理士」を取得していて、学校に所属する専門家です。
いじめ被害や加害についての相談にも応じています。スクールカウンセラーは、いじめに関する相談についてカウンセリングを通して心理的なケアをしたり、カウンセリングの内容に応じて問題点の特定と解決方法を提案してくれたり、学校の先生とも連携し改善方法を検討してくれます。必要であれば、より専門的な機関を紹介してくれることもあります。
スクールカウンセラーに悩みを打ち明けるだけでも安心感を得ることにつながりますし、先生とも連携していじめ問題の解決に尽力してくれます。
生徒だけでなく保護者もスクールカウンセラーに相談することが可能です。いじめに関して悩んでいるが誰に相談すればよいのか分からないという方は、ぜひスクールカウンセラーに相談してみてください。
まとめ
諸外国におけるいじめの現状や、いじめに対する法律や対策をご紹介しました。日本でも10年ほど前にいじめに関する法律が定められ、行政や教育現場で力を入れていじめ対策に取り組んでいますが、子どもたちを取り巻くいじめの状況はなかなか改善されないのが現状です。
諸外国のいじめ事情を調べてみると、いじめが大きな問題になっているのは日本だけではなく、各国の文化や考え方に合った多種多様な対策が試みられています。
海外のいじめ問題の現状と対策を知った上で、いじめをなくしていくために日本でも海外の対策を少しずつ取り入れていけるようになれば、よりよい未来につながっていくのではないでしょうか。
◇経歴(英語を使用した経歴)
小中学生時代をアメリカ・ニューヨーク州で過ごした後、高校では英語を専門的に学び大学では主に英語教育を学びました。その中で、実際に中学生に対して学校で英語の授業を行ったり塾講師として受験英語の指導を行ったりしていました。
◇資格
・英検準1級
・TOEIC865点
・中学校教諭一種免許状(英語)
・高等学校教諭一種免許状(英語)
◇海外渡航経験
小学校3年生から中学生までの間、アメリカ・ニューヨーク州で生活し、現地の学校に通っていました。
この経験を通じて、異文化の中で生活する楽しさや戸惑いを肌で感じながら、英語や多様な価値観に触れることができました。
まだ幼いうちに新鮮な経験ができたこともあり、クラスメートとの交流や現地の行事への参加を通じて、自然とアメリカの文化に溶け込んでいく貴重な時間を過ごしました。
◇自己紹介
WEBライターのりんと申します。義務教育時代を海外で過ごした経験を活かして主に英語や教育に関する記事を執筆しております。