イギリス英語を学ぶなら、その歴史や文化背景まで理解することで、より深く楽しく学習できます。
イギリスの正式名称は「グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国」。
実はこの国名に、イギリスの言語的多様性のヒントが隠されています。
イギリスには、英語に加えてウェールズ語、スコットランド語、アイルランド語の計4つの公用語が存在するのです。
さらに、地域ごとに異なる10もの方言が存在し、それぞれ独特の発音や表現を持っています。
有名なコックニー訛りから、古英語の特徴を残すウェストカントリーまで、そのバリエーションは実に豊か。
本記事では、イギリスの公用語と代表的な方言、そしてフランス語の影響を受けた歴史、さらには階級と英語の関係、アメリカ英語との違いなど、多角的にイギリス英語の世界を探求します。
早速、イギリス英語の奥深い魅力に触れてみましょう!
イギリスの公用語は4つ?
イギリスの正式名称は、「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland」(グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国)です。
日本語での略称は「イギリス」「英国」、英語での略称は「United Kingdom」「UK」となっています。
この名称からも分かるように、イギリスはイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドから構成される連合国家です。
それぞれ、民族、文化、アイデンティティ、言語も異なります。そのため、ある地域では英語以外の公用語があるのです。英語を含めると4つ公用語があることになります。
他の3つの公用語は、ウェールズ語、スコットランド語、アイルランド語です。
それぞれの特徴をご紹介します。
ウェールズ語
元々は文字を持たず、公式文書にはラテン文字が利用されていました。
ウェールズの公用語は英語のみとされた過去もありますが、1993年に公用語認定されました。
第二言語として学校でも教えられています。発音は難しく、他国の人が真似するのは厳しいようです。
スコットランド語
「スコッツ語」とも呼ばれています。
英語と近い関係にある、ローランド(低地)地方のゲルマン語派です。ケルト語派の「スコットランド·ゲール語」もスコットランドでは使われています。
アイルランド語
ケルト語派の言語です。会話に使用されることは現在では少ないですが、交通標識などで英語と併記されていたりします。
アルファベットのAからIまでと、LからUまでの18文字にVを加えた19文字が使用されます。
イギリスの10の方言
イギリスへ旅行を考えているなら、各地で異なる方言を体験するのも楽しみのひとつです。
その多様性は驚くほどです。一口に「英語」と言っても、地域によって発音や語彙が大きく変わるため、イギリス英語を学ぶ人にとっても方言の理解は重要となってきます。
この項目では、イギリスの方言の特徴を分かりやすく解説します。
それぞれの地域独特の表現を学び、イギリス文化への理解を深めてみましょう!
コックニー
とても有名な方言です。イースト·エンド·オブ·ロンドンの下層級労働者の訛りです。「イースト·ロンドン·ヘリテージ」としての認識も受けています。
【特徴】
○thをfに変える
○hの発音を飛ばす(例:「head」などの「h」を飛ばす)
○aやeの母音を伸ばして発音
エセックス
ロンドンからも日帰りで行くことのできるエセックスという都市の方言です。
【特徴】
○Noが「NA-hw」になる
○thを発音しない
○thinkはfinkになる
○toやtheを発音しない
R.P.
容認発音(R.P.)または標準英語であるクイーンズイングリッシュを指します。ホームカントリー(サセックス、サリー、ケント、ハートフォードシャー、バッキンガムシャー、バークシャー)のアクセントが近いとされています。
【特徴】
○aやoの母音を強調するフラットアクセント
ウェストカントリー
コーンウォール、デボン、サマセット、ドーセット、グロスターシャーで使われている方言です。古英語に近いとされています。
【特徴】
○I amがI beになる
○You areがThou bistになる(現代ドイツ語に近い発音)
○r発音が柔らかく巻くようになっており、アメリカ英語に似ている
ブラミー
バーミンガムの歴史上の名前である「Brummagem」と「Bromwichham」が名称の由来です。
【特徴】
○Helloを「heh-LOUW」と発音する
ウェールズ
ウェルシュ語と呼ばれており、約50万人が話しています。
世界で2番目に長い地名の村で有名です。「Llanfairpwllgwyngyllgogerychwyrndrobwllllantysiliogogogoch」(ランヴァイル·プルグウィンギル·ゴゲリフウィルンドロブル·ランティシリオゴゴゴホ)という名前なのですが、本当に長いですよね。
【特徴】
○Walesは「WEE-alss」と発音
ヨークシャー
ヨーク、シェフィールド、リーズなどで話されています。
【特徴】
○uを「ooh」と発音
○cutは「cuht」と発音
○bloodは「blohd」と発音
スカウス
リバプール出身者の方言です。
【特徴】
○aとyを強調する
○What’s that?は「woss dtha?」と発音
○r発音を巻く
ジョーディー
ニューキャッスル地方で話され、クセが強いことで有名です。
【特徴】
○「ボタン」を「BOT-tdan」と発音
○uを「ooh」と発音
○tの発音を巻く
スコティッシュ
エジンバラやグラスゴーで話されています。ノルド語とゲール語の影響を受けている方言です。
【特徴】
○「スコットランド」を「SKORT-lond」と発音
イギリス英語の変遷を知ろう!
イギリス英語は、フランス語の影響を強く受けていることをご存知ですか?
実はかつて、イギリスの公用語はフランス語だった時代があるのです。
1066年のノルマン征服をきっかけに、支配階級の言語がフランス語へと変化。英語は長きにわたり「民衆の言葉」として扱われました。
しかし、100年戦争を契機に国民意識が芽生え、英語は再び公用語の座へと返り咲くのです。この項目では、激動の時代に翻弄された英語の歴史を紐解きます。
歴史を振り返ると、イギリスの公用語がフランス語だった時期があります。
きっかけは、1066年のノルマン征服によるウィリアム1世の即位でした。日本では平安時代の出来事です。
フランス王の臣下、ギヨームはフランスのノルマンディー地方を統治していました。ギヨームの祖先はノルマン人と呼ばれるヴァイキングでした。
ノルマンディー地方は、スカンジナビア(今のノルウェーやスウェーデン)とデンマークからヴァイキングが移住した土地です。彼らはフランスに定着して現地のフランス人と結婚、子孫たちがフランス語話者になりました。
ノルマン征服は、ノルマン人を率いるギヨームがイギリスを攻め入り占領したことから始まりました。ギヨームがイギリスの王様になり、公用語がフランス語になったのです。
厳密に言うとイングランド内の支配者ノルマン系貴族と協力者の土着系貴族がフランス語を話しました。(ウェールズやスコットランドは別言語です)そして一般人は土着の言語を話すという、ひとつの国で2つの言語が用いられていたのです。
この流れで、英語はフランス語の語彙を導入していきました。
1339年、イギリスとフランスの間で戦争が勃発します。いわゆる100年戦争です。
この戦争を通じて、「自分たちはイギリス人だ」という感情がイギリス人の間に芽生えていきました。
1362年、イギリス王エドワード3世の治世で議会の開会宣言が英語で行われ、学校教育でも英語が使われるなど、英語が公の場に姿を現し出します。
1399年、ヘンリー4世は即位演説を英語で行い、英語が「我が母国語」だと発言します。
ノルマン征服によりフランス語が公用語となったイギリス。支配階級と民衆の言語が分かれるという状況の中、英語は独自の進化を遂げました。
100年戦争を転機に国民意識が高まり、英語は公用語として復活。フランス語の影響を受けながらも、力強く息を吹き返したのです。
現在の多様な方言にも、この歴史的背景が深く関わっていると言えるでしょう。英語の変遷を知ることで、イギリス文化への理解もより一層深まるはずです。
階級によって変わるイギリスの英語
イギリスでは、階級の差が反映された英語が話されています。
そのためイギリス人は、少し話しただけで相手の出身地や階級も分かるそうです。発音だけでなく、語彙やフレーズも異なるとのこと。
例えば、既にご紹介したコックニーはロンドンの下町英語です。その一方で、R.P.は上流階級と関連づけられています。
とっつきにくいというネガティブな印象もあるため、R.P.の「標準語」としての地位は低下しつつあるようです。
そんな背景の中、R.P.とコックニーの間をとるような、河口域英語(Estuary English)が生まれたのはご存知でしょうか。
河口域とはテムズ川の河口のことであり、イングランド南東部で話されています。
それほどお高くとまっておらず、かつ俗すぎないということで受け入れられてきています。
イギリス英語の挨拶をアメリカ英語と比較してみると
「Good morning」や「Hello」は世界共通で使われますが、ちょっとした表現の違いで国籍が分かることもありますよね。
特にイギリス英語とアメリカ英語は、一見似て非なるもの。
例えば「How are you?」のフランクな言い回しや、「休暇」を意味する単語ひとつとっても、イギリスとアメリカでは表現が異なります。
日常会話で使えるイギリス英語の挨拶や単語表現の違いを、アメリカ英語と比較しながらご紹介します。
まずは同じ表現から見ていきましょう。イギリスでも、アメリカ同様
「Good morning.」
「Hello.」
「How are you?」
は挨拶として使います。
「How are you?」をフランクにすると、
イギリスでは
·How are things with you?
·Are you alright?
·How’re you doing?
アメリカでは
·What’s up (man)?
·What’s new?
·How’re things?
·How’s it going?
といったフレーズで表現します。
単語の使い方もイギリス英語とアメリカ英語では異なります。
例えば、休暇を表す単語はイギリスでは主に「holiday」なのに対し、アメリカでは「vacation」が用いられます。
イギリス英語の「holiday」は、仕事や学校の休み、祝日・クリスマスの休み、海外旅行を指します。
アメリカ英語の「vacation」は旅行や長い休みに相当し、クリスマスなど特別な休みを「holiday」で表します。
まとめ
この記事では、イギリスの言語の多様性について、公用語、方言、歴史、そして社会的な側面まで幅広く解説しました。
4つの公用語と10の方言が存在するイギリス。それぞれの言語には、歴史的背景や地域独自の文化が色濃く反映されています。
かつてフランス語が公用語だった時代や、階級によって異なる英語表現が使われるなど、イギリス英語の変遷は実に興味深いものです。
また、アメリカ英語との比較を通して、イギリス英語特有の表現や単語の違いも明らかになりました。
イギリス英語を学ぶことは、単に言語を習得するだけでなく、イギリスの歴史や文化に触れる旅でもあるのです。この記事が、イギリス英語学習のモチベーション向上に繋がることを願っています。