
かつてアメリカのビールといえば、「ラガー」一辺倒だと思われていましたが、今は全く違います。西海岸から東海岸まで様々な醸造所がひしめき合い、ビール文化が爆発しているのです。
スーパーの棚を見れば、見たこともないカラフルな缶がずらり。タップルーム(ブルワリー併設の飲食スペース)では、ホップの香りが充満する中で人々がグラスを掲げています。
今回は、王道の味わいから昔ながらのブランド、日本での買い方まで、アメリカビール事情を紹介。この記事を読み終える頃には、喉が鳴り、無性にアメリカビールが飲みたくなっていることでしょう。
アメリカビールの主な種類
アメリカは紛れもなく、世界有数のビール実験場です。これまで醸造家たちは「もっと苦く」「もっと香り高く」と、自由な発想で進化させてきました。
その中心にあるのが「ホップ」。柑橘や松脂、トロピカルフルーツを思わせるその香りは、世界中のビールファンの常識を覆しました。
ここでは、絶対に押さえておくべき6種類のアメリカビールを紹介します。
アメリカンIPA
今、クラフトビールの世界で非常に人気があり、最も熱狂的なファンのいるビールが「アメリカンIPA(インディア・ペールエール)」です。
一言で表現するなら「ホップの爆弾」。グラスに鼻を近づけた瞬間、グレープフルーツやパッションフルーツ、あるいは松林の中にいるような鮮烈な香りが脳を刺激します。
最大の特徴は、舌に残るしっかりとした苦味。しかし、ただ苦いだけではありません。
上質なIPAは、モルトの甘みとホップの苦味が絶妙なバランスで、飲み干した後に爽快なキレを感じさせます。アルコール度数は5%〜7.5%程度とやや高めですが、その風味の強さゆえにスルスルと飲めてしまいます。
近年では、苦味を極限まで抑え、ジュースのように濁った「ヘイジーIPA(ニューイングランドIPA)」も流行中。「苦いのは苦手だけど、香りは楽しみたい」という層を取り込み、IPAの裾野をさらに広げました。
アメリカンペールエール
「IPAはちょっと苦すぎる」と感じる方や、最初の一杯に迷った時に選ぶべきなのが「アメリカンペールエール」。
ホップ由来の柑橘系の香りはしっかり感じさせつつ、苦味は穏やかで、モルトの香ばしさも楽しめるはずです。
ペールエールの特徴は、どんな料理にも合うところ。ハンバーガーやピザといったアメリカンフードはもちろん、日本人の味覚に合う料理とも喧嘩しません。
アルコール度数は4.5%〜5.5%程度と標準的で、飲み疲れしないのも嬉しいポイントです。
多くの醸造所にとって、ペールエールは実力を測る名刺代わりにもなります。派手さこそIPAに譲りますが、毎日飲んでも飽きないクラフトビールの入門です。
アメリカンラガー
世界中で大量に消費されているビールが「アメリカンラガー」です。
日本の大手メーカーが作るピルスナーもラガーの一種ですが、アメリカは徹底的に飲みやすさを追求している点で異なります。
大麦麦芽に加えて、米やトウモロコシを副原料として使用するのが一般的です。これにより、麦の重たさが消え、クリアでドライな味わいが生まれます。
苦味はほとんど感じられず、炭酸の刺激と冷たさを楽しむための飲み物と言っても過言ではありません。
炎天下の野球場やビーチでのバーベキューなど、喉の渇きを潤すシーンでこれ以上の相棒はいません。味わって飲むというよりは、友達と会話したり、スポーツ観戦で熱狂したりしながら、水のようにゴクゴクと流し込みます。
スタウト・ポーター
黒ビールの代表格である「スタウト」や「ポーター」も、アメリカの手にかかればパワフルに生まれ変わります。
元々はイギリス発祥ですが、アメリカの醸造所はローストした麦芽の風味をより強め、コーヒーやビターチョコレートのような濃厚なコクを引き出しました。
特筆すべきは、ホップを効かせたスタウト。黒ビール特有の焦げたような苦味に、シトラスや松の香りが重なり、複雑な味わいを生み出します。
冬の寒い夜に、ゆっくりと温度変化を楽しみながら、ちびちびやるには最高のお酒です。
さらに、アルコール度数を高めた「インペリアルスタウト」や、バーボンウイスキーの樽で熟成させた「バレルエイジド」などの派生形も大人気。もはやビールの枠を超え、高級洋酒のような風格さえあります。
アンバーエール
「アンバーエール」はその名の通り、透き通った琥珀色が美しいビールです。
主役はモルト(麦芽)。焙煎したモルトがもたらすキャラメルやトースト、ナッツのような香ばしさと甘みが、口いっぱいに広がります。
ホップの苦味は控えめで、全体的にまろやかな口当たり。IPAのような尖った刺激がない分、リラックスして飲める癒やし系の味わいです。
肉汁たっぷりのステーキや、甘辛いバーベキューソースのかかったリブなど、味の濃い料理と合わせると、モルトの甘みが脂を包み込んでくれます。
「苦いのは嫌いだけど、ラガーでは物足りない」という日本人の舌に馴染みやすいです。じっくりと麦の旨味を感じたい時に適しています。
サワーエール
ここ数年、アメリカのクラフトビールシーンで注目を集め、急成長しているのが「サワーエール」です。
直訳すると「酸っぱいビール」。初めて飲む人は「腐っているのでは?」と疑うほどの強烈な酸味に驚きますが、一度ハマると抜け出せない沼です。
乳酸菌や野生酵母を使って発酵させ、意図的に酸味を作り出します。ラズベリー、ピーチ、チェリーなどのフルーツを大量に投入した銘柄が多く、見た目も鮮やかな赤やピンク色で、まるでフルーツカクテル。
苦味が全くないものも多いため、ビール嫌いの層からも支持されています。
蒸し暑い日に飲む、冷えたサワーエールの爽快感は格別。酸味が唾液の分泌を促し、食事の脂っこさをリセットしてくれるため、食中酒としても優秀です。
アメリカの大手ビールブランド
クラフトビールが台頭した今でも、アメリカのビール消費量の大部分を占めるのは、大手メーカーが作るナショナルブランドです。
ここでは、アメリカ文化の一部として定着している4つのビールブランドを紹介します。それぞれの味の違いを知っておくと、現地でのビール選びがスムーズになるはずです。
Budweiser
「King of Beers(ビールの王様)」の称号を掲げる「Budweiser(バドワイザー)」。赤いラベルと白抜きの文字は、アメリカンラガーの象徴として世界中で認知されています。
アンハイザー・ブッシュ社が1876年に発売して以来、圧倒的なシェアを維持し続けてきました。
バドワイザーの特徴は、独自のビーチウッド製法です。タンクの中にブナの木材を入れることで酵母の働きをコントロールし、雑味のない非常にスムーズな味に仕上げています。
副原料の米が生み出す、ドライでクリスピーな喉越しは唯一無二です。
日本で飲むバドワイザーも美味しいですが、本場アメリカのダイナーで、ハンバーガーと一緒に飲む味は格別。繊細な味わいを探すのではなく、その場の空気を楽しむためのビールともいえます。
Coors
ロッキー山脈の麓、コロラド州ゴールデンで生まれた「Coors(クアーズ)」。特にクアーズ・ライトは、「The Silver Bullet(銀の弾丸)」の愛称で親しまれ、全米では超人気銘柄です。
最大の特徴は、ロッキー山脈の天然水を使用した圧倒的な清涼感にあります。
醸造から出荷まで一度も熱を加えないコールドフィルター製法により、酵母を生きたまま取り除くことで、フレッシュな風味を閉じ込めています。苦味は極限まで抑えられているビールです。
パッケージにも遊び心があり、缶に描かれた山脈のイラストは、飲み頃の温度(約4℃)になると青色に変化します。「山が青くなったら飲み時」というサインは、パーティーやアウトドアで大活躍。
とにかく冷たくして、爽快感を味わいたい時におすすめの一本です。
Miller
ウィスコンシン州ミルウォーキー発祥の「Miller(ミラー)」。
代表的なミラー・ライトは、世界で初めて成功した低カロリービールとして知られています。「Tastes Great, Less Filling(味はすごく良くて、お腹にたまらない)」というキャッチコピーで一世を風靡しました。
「ミラー・ハイライフ」という銘柄は、「The Champagne of Beers(ビールのシャンパン)」と呼ばれています。
金色のラベルと強い炭酸、クリアな黄金色が、安価ながらもちょっとした贅沢感を演出。労働者階級の祝杯として、長く愛されているビールです。
独自のセラミックろ過技術を用いた「コールド・フィルタリング」により、加熱殺菌臭のない、生ビールに近いフレッシュさを実現しています。まろやかでバランスの取れたラガーのようです。
Samuel Adams
ボストン・ビア・カンパニーが手掛ける「Samuel Adams(サミュエル・アダムス)」は、他の大手ブランドとは少し立ち位置が異なります。
1984年の創業以来、アメリカにおけるクラフトビールブームの火付け役になった、パイオニア的存在です。
看板商品の「ボストン・ラガー」は、大量生産のライトラガーとは一線を画します。ドイツの伝統的な製法に従い、高品質なホップと麦芽を贅沢に使用。琥珀色の液体からは、濃厚な麦のコクと、フローラルなホップの香りが漂います。
大手メーカー規模でありながら、クラフトビールの魂を失っていない稀有なブランドです。
季節ごとに発売される限定ビールも、非常に種類が豊富。「いつものラガーより、ちょっといいビールが飲みたい」という時に選ばれる、信頼されるブランドです。
人気のアメリカクラフトビール
数ある小規模醸造所の中でも、地域を超えて愛され、世界的な名声を得たトップランナーたちがいます。彼らは単にビールを作るだけでなく、新しいライフスタイルを確立しました。
ここでは、日本でも比較的手に入りやすく、かつアメリカのクラフトビールシーンを語る上で欠かせない5つのブランドを紹介します。
Sierra Nevada
カリフォルニア州チコから始まった「シエラネバダ(Sierra Nevada)」は、アメリカンクラフトビールの原点にして頂点です。1980年、創業者のケン・グロスマンが醸造した「ペールエール」は、それまでのビールの常識を覆しました。
カスケードホップ由来の、グレープフルーツを思わせる鮮烈な香り。この香りに衝撃を受けた若者たちが次々と醸造家を目指し、今のブームが生まれたと言っても過言ではありません。
発売から40年以上経った今でも、そのレシピと緑色のラベルは色褪せることなく、業界トップとして君臨しています。
環境問題への取り組みでも業界をリードしました。太陽光発電や廃棄物の再利用を徹底し、持続可能なビール造りを実践。
品質管理への執念も凄まじく、いつどこで飲んでも完璧な状態のビールを提供してくれるのです。「迷ったらシエラネバダを選べ」と言われるほどの安心感があります。
Stone Brewing
サンディエゴをクラフトビールの聖地へと押し上げた立役者が「Stone Brewing(ストーン・ブリューイング)」。
トレードマークは、缶に描かれた不敵なガーゴイルです。「マーケットの好みに合わせる気はない。自分たちが飲みたい最高に苦いビールを作る」というパンクな姿勢を貫いています。
代表作の「Stone IPA」は口に含んだ瞬間、松やシトラスの香りが爆発し、その直後に強烈でドライな苦味が舌を締め付けます。
かつて「Arrogant Bastard(傲慢な野郎)」という名のビールを出し、「気に入らないなら飲むな」と挑発したエピソードは伝説です。
しかし、雑味がなくクリアな苦味だからこそ、多くのホップヘッズ(ホップ中毒者)を生み出しました。自分たちの信じる道を突き進む、アメリカン・ドリームを体現したようなブランドです。
Dogfish Head
東海岸デラウェア州の「Dogfish Head(ドッグフィッシュ・ヘッド)」は、「Off-Centered(型破り)」をスローガンに掲げるブランド。
ドッグフィッシュ・ヘッドは、一般的なビールの原料(麦・ホップ・水)だけに縛られません。メープルシロップ、コーヒー、茶葉、ロブスターまで素材として使用し、実験的なビールを生み出し続けています。
特に有名なのが、ホップを煮沸中に絶え間なく投入し続ける「連続ホップ投入製法」で造られた「60 Minute IPA」。強烈な苦味よりも、重層的な香りを際立たせることに成功しました。
古代エジプトや中国の遺跡から発掘された成分を元に、数千年前のビールを再現するプロジェクトなども手掛けています。
飲む人の知的好奇心を刺激し、ビールを単なる酒から文化体験へと昇華させた功績は計り知れません。
New Belgium
コロラド州フォートコリンズに拠点を置く「New Belgium(ニューベルジャン)」。創業者が自転車でベルギーを旅した際に飲んだビールの味に感銘を受けて設立されました。
その名の通り、ベルギーの伝統的なスタイルをアメリカ流に解釈したビールを得意としています。
看板商品の「Fat Tire(ファットタイヤ)」は、ビスケットのような香ばしいモルトの風味と、穏やかなホップのバランスが絶妙で、何杯でも飲めるのが魅力です。食事との相性も抜群で、全米のレストランで愛されています。
また、従業員が会社の株を持つESOP(従業員持株制度)を導入しており、働く人々がオーナー意識を持ってビール造りに取り組んでいます。
環境保護団体への寄付も積極的で、「ビールを飲むことがより良い未来につながる」というメッセージを発信し続けるブランドです。
Lagunitas
カリフォルニア州で創業し、現在はシカゴにも巨大な醸造所を持つ「Lagunitas(ラグニタス)」。IPAカテゴリで全米トップクラスの売上を誇る実力派です。
犬のキャラクターが目印で、自由で陽気なカリフォルニアの空気をそのまま詰め込んだようなビールを作っています。
主力商品の「Lagunitas IPA」は、キャラメルのようなモルトの甘みと、ホップの苦味で飲みごたえのある味わい。アルコール度数はやや高めですが、口当たりが滑らかすぎて飲みすぎてしまうことから、良い意味で危険なビールとして知られています。
大手ハイネケンの傘下に入った後も、その反骨精神は健在。大麻を匂わせるスラングを商品名に使ったり、音楽フェスを主催したりと、常に話題になっています。
仲間とワイワイ騒ぎながら飲むのにおすすめな、パーティーに欠かせないブランドです。
アメリカビールの購入ガイド
「現地で美味しいビールを買いたい」「日本に帰ってもあの味を楽しみたい」と思った時、どこでどう買えばいいのか。アメリカ特有のルールや、日本で購入する際のコツを知っておくことは重要です。
ここでは、知っておくと役立つ具体的な購入方法を伝授します。
空港・免税店での購入
旅行の最後に、空港でビールを買って帰ろうと考える人は多いですが、注意点があります。
空港の免税店に置かれているのは、バドワイザーなどの大手ブランドや、ごく一部の有名クラフトビールに限られることがほとんどです。街中のスーパーで見かけたような、地元の小さな醸造所のレアな缶ビールにはまず出会えません。
本当に美味しい地ビールを持ち帰りたいなら、空港へ行く前に街の酒屋で購入し、スーツケースに入れて、預け入れ荷物にするのが鉄則です。
その際は、気圧の変化や衝撃で漏れないよう、衣類でぐるぐる巻きにするか、プチプチなどの緩衝材を日本から持参して、厳重に梱包しましょう。
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スーパーでのおすすめ
アメリカのスーパーマーケットや地元の大型リカーショップは、ビール好きにとっての遊園地です。壁一面に並ぶ冷蔵ケースには、数百種類ものカラフルな缶が並んでいます。
ここでの購入のコツは、製造年月日を確認すること。特にIPAなどのホップが命のビールは、鮮度が重要です。できれば製造から3ヶ月以内、理想は1ヶ月以内のものを選びましょう。
また、6本パックだけでなく、1本ずつ自由に選べる「Mix & Match」コーナーがある店も多いので、色々な種類を試したい場合は利用してください。
そして、最も重要なのが「ID(身分証明書)」です。アメリカでは年齢確認が厳しく、たとえ白髪の老人であっても、レジでIDの提示を求められることがあります。
日本の運転免許証は通用しないことが多いので、必ずパスポートを持参してください。コピーでいいか聞いても断られるため、パスポート原本が必須です。
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日本で買えるアメリカビール
帰国後も、アメリカビールの味が恋しくなるかもしれませんが、幸いなことに日本の輸入ビール事情は年々良くなっています。
「成城石井」や「やまや」などでは、シエラネバダやストーンといった有名どころが常時並ぶようになりました。
より楽しみたいなら、アメリカビール専門のインポーターが運営するオンラインショップを活用しましょう。「アンテナアメリカ」は、現地から冷蔵コンテナで直輸入して、アメリカで飲むのと変わらないフレッシュな状態で届けてくれます。
最近では、全国のビアバーやパブで、アメリカのクラフトビールを樽生で提供する店も増えています。缶や瓶では味わえない、サーバーから注がれたばかりのきめ細かい泡と香りは格別です。
お気に入りのアメリカビールを見つけよう!
アメリカのビール文化は、まさに自由そのもの。ルールにとらわれず、醸造家たちが情熱のままに作り上げたビールたちは、私たちに新しい味覚を教えてくれます。
喉が焼けるほど苦いIPAに顔をしかめるのも、甘酸っぱいサワーエールに驚くのも、全ては楽しいビール体験の一部です。
今回紹介したものを参考に、ぜひ自分の舌で、あなただけの最高の一杯を探してください。