フィリピンは語学留学先としてだけでなく、IT・サービス業を中心とした日系・外資系企業の就職先としても注目されています。留学後に現地で就職を目指す場合、日本本社からの「駐在」で働くのか、フィリピン法人に「現地採用」されるのかで、待遇やキャリアプランが大きく異なります。
この記事では、2つの働き方の特徴や違いを見比べながら、フィリピンで働くための基本情報を、分かりやすく解説します。
フィリピンで働くときの主な雇用形態
フィリピンで日本人が働く際は、大きく分けて「海外駐在」と「現地採用」の二つがあります。1. 海外駐在(Expat)
日本の本社、あるいは外資系親会社から派遣され、フィリピン支社や現地法人で勤務します。給与は「日本での基本給与+現地手当(住宅手当・生活手当など)」が支給され、高水準の待遇が魅力です。高層マンションや運転手付き車両、ジム・プール利用など、福利厚生が充実しているケースも多く見られます。短期〜中期の駐在が前提で、数年後の帰任プランが基本となります。
2. 現地採用
フィリピン法人に直接雇用される形態で、給与は基本的にフィリピン人社員と同等水準になります。ただし、日本語力や専門スキルを活かせば、相対的に高めの条件を提示されることもあります。採用手続きはフィリピン国内で完結し、ビザや労働許可の取得も企業がサポートします。駐在員のような帰任前提がなく、フィリピンで中長期に定住しやすいのが特徴です。
海外駐在と現地採用の比較
海外駐在の場合は、福利厚生やビザのサポートがしっかりしていて安心感があります。一方で、現地採用では自分の裁量で働き方や暮らしを決めやすく、より自由度の高い生活が送れるのも特徴です。
・給与水準:海外駐在 > 現地採用
・住環境:海外駐在(会社手配)/現地採用(自己手配)
・キャリアプラン:駐在は数年後、帰任が前提/現地採用は現地定着志向
それぞれのメリット・デメリットを踏まえ、自分のキャリアビジョンやライフプランに合った雇用形態を選ぶことが重要です。
フィリピンで多い求人
フィリピンには2022年時点で約1,430社の日系企業が進出しており、製造業や商社、建設業をはじめ、IT・サービス業まで幅広く求人が出ています。特に下記の5つの職種が代表的です。
製造業の生産管理・品質管理
自動車や電機部品などの日系製造業が多数進出。工場でのプラント設備施工管理、安全管理、工程・品質・原価管理のポジションが多く、将来的に現地の工場長を期待されるケースもあります。
貿易・商社系営業
原材料の輸入や完成品の輸出を担う商社・貿易会社の営業職。国際貨物の通関手続き、倉庫管理、販売ルートの構築など、サプライチェーン全般に携わります。
オンライン英会話スクールのカスタマーサポート
日本人ユーザー向けの予約管理やトラブル対応がメイン。フィリピンは英語教育が盛んな国であるため、講師は現地人が多く、カスタマーサポート業務を通じて英語力の向上も期待できます。
出版・広告・ウェブマーケティング
日本人向けメディアやウェブサイトの編集・ライティング、取材、広告営業。SEO対策やコンテンツ企画など、クリエイティブかつマーケティングスキルを活かせる仕事です。
コールセンターオペレーター(BPO)
フィリピンの中核産業であるBPOでは、日本語による電話対応や受発信サービスを提供しています。未経験者歓迎の求人も増加中で、チームリーダーやマネージャーへのキャリアパスが用意されるケースもあります。
フィリピンの経済成長率は高く、BPOやIT関連の需要が年々拡大しているため、未経験からチャレンジできるチャンスも豊富です。
フィリピンで働く時に求められるスキル
フィリピンで働く日本人が活躍するには、語学力や専門知識に加えて、文化の違いを理解し、主体的に行動できる力が求められます。
・バイリンガル能力(日本語・英語)
業種:BPO、オンライン英会話スクール
・生産管理・品質管理スキル
業種:製造業(プラント設備施工管理、安全管理、工程管理、品質管理など)
・営業・交渉力
業種:貿易・商社系営業
・編集・マーケティングスキル
業種:出版、広告、ウェブマーケティング
・コミュニケーション力
業種:カスタマーサポート全般
・IT・プログラミング
業種:外資系IT企業、スタートアップ、社内システム開発
これらのスキルを備えることで、フィリピン現地の多様な職場で橋渡し役や即戦力として評価されやすくなります。
フィリピンで働く際の給与目安
フィリピンでの給与水準は職種や雇用形態、勤務地によって大きく異なりますが、主な業種別の給料の目安は以下の通りです。なお、為替は1PHP=約2.6円換算で記載しています。
フィリピンで働く際の給与目安(2023年版)
職種・区分 | 給与(月額) | 日本円換算(目安) | 備考・情報元 |
一般フィリピン人 の平均月収 |
15,000〜20,000 PHP | 39,000〜52,000円 | フィリピン統計庁 (Philippine Statistics Authority(PSA) - Home) |
日本人現地採用 | 100,000〜150,000 PHP | 260,000〜390,000円 | RCX Recruitment Inc. |
BPO (コールセンター) |
60,000〜100,000 PHP | 156,000〜260,000円 | 日本語対応(RCX Recruitment Inc.) |
オンライン /対面英語教師 |
14,000〜20,000 PHP | 36,400〜52,000円 | Jobstreet Philippines Glassdoor |
オンライン /対面英語教師(時給) |
110〜151 PHP/時 | 286〜392円/時 | 月額換算:約19,000〜26,000 PHP(Glassdoor) |
ITエンジニア | 70,000〜150,000 PHP | 182,000〜390,000円 | 外資・日系(Kento Hub) |
地域別の給与水準(月額目安)
フィリピンで働く際の給与の地域ごとの違いは以下の通りです。
地域別の給与水準(月額目安)
地域 | 給与(月額) | 日本円換算(約) | 備考(philbiz.jp) |
マニラ首都圏 | 25,000〜35,000 PHP | 65,000〜91,000円 | フィリピンの経済中心、物価高め |
セブ島 | 20,000〜30,000 PHP | 52,000〜78,000円 | 外資系企業、観光業が盛ん |
ダバオ | 18,000〜25,000 PHP | 47,000〜65,000円 | 地方都市、生活費が比較的低い |
ご自身が応募を検討している業界・職種・勤務地の給与水準を事前に調べ、条件交渉の際の目安としてください。
フィリピンで働く上で知っておきたい労働環境・文化
フィリピンで現地採用として働く際には、日本とは異なる法制度や慣習、職場文化を理解しておくことが重要です。以下のポイントを押さえ、自分のライフスタイルやキャリアプランに合った働き方を検討しましょう。
雇用形態と試用期間
フィリピンでの一般的な雇用形態と、その試用期間を見ていきましょう。
・正社員(Regular)
多くの企業が正社員採用を基本とし、雇用契約は無期限です。
・契約社員(Contractual)
プロジェクト単位やポジション限定で1年ごとに契約を更新します。
・試用期間(Probation)
労働法で最長6ヶ月の試用期間が設けられ、期間中も給与は全額支給。終了後に正社員契約に移行します。
勤務時間と休暇制度
フィリピン企業の一般的な勤務体系と休暇制度を確認しましょう。
・標準的な勤務時間
平日8:00~17:00(昼休憩1時間)/週5日勤務。残業は少なめですが、繁忙期には発生します。
・有給休暇(Vacation Leave)
入社1年後から5〜10日付与。勤続年数に応じて毎年増加します。
・法定休日・祝日
年間約20〜24日の祝日があり、ホーリーウィークやクリスマスには長期休暇を取得しやすいです。
給与・賞与・手当
給与体系と賞与、主な手当について概要を紹介します。
・給与の支払い通貨
現地採用はペソ払いが基本。ドル/円は稀です。
・新卒フィリピン人スタッフ(大卒事務職)
₱9,000/月(約23,400円)
・日本人の現地採用
₱50,000~₱100,000/月(約130,000~260,000円)
・賞与・13ヶ月ペイ
年末に「月給1ヶ月分」を支給する企業が多数あります(必須ではなく慣例)。
・主な手当例
住宅手当、交通手当、食事手当など(企業によって異なります)。
社会保障・保険制度
フィリピンの公的保険制度と、企業が関与する医療や社会保障制度のサポートは以下のようになります。
・SSS(社会保障制度)
すべての民間労働者が加入しています。病気・ケガ・出産・死亡時に給付あり。
・PhilHealth(国民健康保険)
医療費の一部補助。提携医療機関でキャッシュレス治療を提供する企業も。
・Pag-IBIG(住宅貯蓄制度)
住宅ローンや緊急ローンを低金利で利用可能。企業拠出もあり。
交通・住環境サポート
通勤と住居に関する企業からのサポートは以下のようになります。
・交通費・車両
マニラ圏内は自己手配が基本。郊外や特定プロジェクトではシャトルバスや社用車あり。
・住居サポート
コンドミニアム借り上げ、社宅提供、住宅手当など、企業によって条件が異なります。
職場文化・コミュニケーション
フィリピン独自の職場文化やコミュニケーションのあり方についてご紹介します。
・フレンドリーかつフラット
上下関係は緩やかで、雑談や意見交換が活発です。
・時間の柔軟性(Filipino time)
会議やアポイントが予定時刻より遅れて始まることが多いため、予定の15分前にリマインドや確認の連絡を入れる習慣をつけると安心です。
・リレーションシップ重視
信頼構築にはランチや社内イベント参加が重要視されます。
こうしたフレンドリーで柔軟な文化に魅力を感じて移住を決める人も多く、フィリピンで働く理由として語られることの一つに、過ごしやすい職場環境が挙げられます。
フィリピンで働くメリット・デメリット
フィリピンでの就労には、物価や語学環境、成長市場といった大きな魅力がある一方で、給与水準の低さ、インフラ面の課題、文化的な違いによるストレスも存在します。以下に主なメリットとデメリットを整理しました。
フィリピンで働く5つのメリット
1.低い生活コスト
食料品や外食、住宅が安価で、同じ収入でも日本より高い生活水準を維持できます。特に地元産の野菜や果物は新鮮で安価であり、外食も1食あたり200〜300PHP(約520〜780円)程度から楽しめます。
2.英語環境の中でスキルアップ
公用語が英語かつ教育でも英語が使われるため、業務を通じて英語力を磨けます。BPOやオンライン英会話スクールなど、日本語と英語のバイリンガル能力が重宝される職種が豊富です。
3.成長市場・豊富な求人
ASEAN諸国でも高い経済成長率(2023年:5.6%)を維持し、特にBPOやIT、観光業などで採用が活発です。日本企業の進出も多く、日本語対応の求人が増加中で、未経験者向けの求人も多数あります。(出典:qqenglish.jp)
4.文化的ホスピタリティと多様性
フィリピン人はホスピタリティ精神が強く、職場でも親日的・フレンドリーなコミュニケーションが基本です。多民族・多言語国家ゆえの「Halo-Halo(混ぜこぜ)」の価値観のもと、柔軟な人間関係を築けます。
5.医療・社会保障へのアクセス
PhilHealth(国民健康保険)やSSS(社会保障制度)を通じた公的医療・福祉サービスが利用可能。都市部では企業契約の私的医療機関でのキャッシュレス治療も受けやすいです。(出典:expatriatehealthcare.com)
フィリピンで働く5つのデメリット
1.給与水準の低さ
日本と比べると現地採用の給与は低めで、日系現地採用でも50,000~100,000PHP(月額約130,000〜260,000円)が相場。高スキル人材や外資系マネージャークラス以外は、大幅な年収アップは期待しづらいです。(出典:rcx-recruitment.com)
2.インフラ・交通事情の課題
マニラなど大都市では慢性的な渋滞や大気汚染が深刻で、通勤に2時間以上かかるケースも珍しくありません。また、地方都市では医療施設や物流インフラが未整備な場合があります。
3.文化・ビジネスマナーのギャップ
「Filipino time」と呼ばれる時間感覚や、期日よりも人間関係を優先する傾向など、日本的な厳密さを期待するとストレスを感じることがあります。フィリピンでは、期限や手順が厳密に守られないこともあるため、自分から確認やリマインドをする意識が求められます。
4.社会的・制度的リスク
公的手続きにおいては、地域によっては、公的手続きの透明性や信頼性に課題があることもあります。就労ビザの手続きや税務処理も複雑になることがあるため、信頼できる企業のサポート体制が重要です。(出典:qqenglish.jp)
5.キャリアの評価・帰国後のギャップ
フィリピンでの経験が日本の企業で必ずしも高く評価されるわけではなく、帰国後のキャリアプランを明確に描いた上で渡航しなければ、後悔する可能性があります。
フィリピンで働くことのメリットデメリットを述べてきましたが、全てのデメリットがネックになるとは限りません。日本と比べ、満員電車でない通勤や、フレンドリーで温かい人間関係、自然の多い環境でのびのびと暮らせる点など、ストレスの少ない生活を送れるのもフィリピンで働く魅力です。フィリピンで働く理由は人それぞれですが、自分がどのような暮らし方・働き方を望むのか良く考えて、納得のいくキャリア選択をしていきましょう。
まとめ
フィリピンで働くことは、低い生活費、英語環境、求人の豊富さなどが魅力です。一方、給与水準の低さやインフラの課題、時間感覚の違いなど、日本とは異なる文化・制度への適応が求められます。
自身のキャリアプランやライフスタイルを考慮し、フィリピンで働くことのメリット・デメリットをよく理解した上で、自分に合った働き方を見つける参考にしていただければ幸いです。