「航空業界で働きたいけれど、英語はどのくらい必要なのか」——調べ始めると、TOEIC600点という話もあれば、国家資格が要るという話も出てきて、全体像がつかみにくいのではないでしょうか。

航空業界の英語は、職種によって求められるものが大きく違います。しかも、その一部は普段学ぶ英語とはルールそのものが異なります。この記事では、航空英語の正体から職種別の必要レベル、現場で使われる用語までを順番に整理します。

この記事のまとめ・結論

この記事では便宜上、航空業界で必要な英語を、パイロット・管制官が無線通信で使う航空英語(Aviation English)と、CA・グランドスタッフなどが接客や実務で使う一般英語に分けて整理します。

国際運航の無線通信に従事するパイロット・管制官にはICAOの定めるレベル4以上が最低基準、CA・グランドスタッフはTOEIC500〜600点程度が募集要項に挙がる水準です。

まずは自分の志望職種がどちらに属するかを見極めることが、遠回りしない学習の出発点になります。

この記事でわかること
  • 航空英語が日常英語と違う3つのポイント
  • パイロット・管制官・CA・グランドスタッフ・整備士に求められる英語力の目安
  • ATC交信の必須用語と、航空業界で頻出する英単語・略語
 

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1. 職種別に必要な英語力の早見表

まず全体像から確認します。以下のスコアは業界統一基準ではなく、公開されている募集要項の例です。年度や会社によって変わるため、志望先の最新情報を必ず確認してください。

職種と求められる英語の水準
職種 求められる英語 水準の目安
パイロット 航空英語+一般英語 国際運航では航空英語能力証明レベル4以上、選考時TOEIC750点程度
航空管制官 航空英語+一般英語 国際航空業務に関わる場合はICAOレベル4以上、採用試験に英語科目
客室乗務員(CA) 接客英語・保安上の説明 TOEIC600点程度
グランドスタッフ 接客英語・案内 TOEIC500〜550点程度または英検2級(会社差あり)
航空整備士 技術文書の読解 英文マニュアルを読める語彙力

それぞれの根拠は記事後半で職種ごとに見ていきます。まずは、この表で「航空英語」と書いた専門言語が日常英語と何が違うのかから整理します。

2. 航空英語が日常英語と違う3つのポイント

航空英語(Aviation English)とは、パイロットや航空管制官などが航空業務の中で用いる英語の総称です。運航の安全に直結するため、日常英語とは設計思想からして異なります。

決められた言い回しで意味が一つに固定される

航空無線で使われる英語は、大きく次の2つに整理できます。

航空無線で使われる英語の2区分
種類 内容 使う場面
標準フレーズ(ICAO standardized phraseology) 語彙・語順があらかじめ決められた定型表現 通常の運航・管制指示
平易な言葉による通信(plain language) 定型では表せない状況を説明する自然な英語 標準フレーズだけでは伝えられない状況・情報

たとえば「了解しました」に相当する表現でも、ROGER(受信した)とWILCO(理解して従う)は別物として使い分けられます。日常英語なら文脈で補える曖昧さが、航空英語では許されないということです。

丁寧すぎる英語はむしろ避けられる

一般的な英会話では「Would you mind if…」のような婉曲表現が好まれますが、航空無線では逆です。ICAO(国際民間航空機関)は無線通信について、高い通信規律を保ち、不要な送信を避けることを求めています。そのため、日常会話のような挨拶や儀礼的な表現は基本的に控えられます。

理由は単純で、言葉が長くなるほど要点が埋もれるからです。無線には表情や身振りといった視覚情報がなく、音質も良くありません。緊急性を伝えたいときほど、短く直接的に言い切る必要があります。

発音の揺れを前提に設計されている

航空無線は、母語の異なる話者を含む多様な言語背景の人同士でも誤解が減るよう標準化されています。そのため、アルファベットを1文字ずつ伝えるICAOのスペリングアルファベット(A=Alfa、B=Bravo など)が使われます。Alfaが一般的な綴りのAlphaでないのは、言語背景の違う話者でも発音を揃えやすくするためです。

英語を母語とする人であっても、一般的な英語とは別に標準フレーズを習得する必要があります。難易度の問題ではなく、別のルールで動いているためです。

3. 航空管制で使われる英語表現と使い分け

パイロットと管制官のやりとり(ATC=Air Traffic Control)で使われる用語は、ICAOの文書で意味が定められています。ここでは特に誤解が生じやすいものを取り上げます。

意味が固定されている代表的な用語

ATC交信で意味が固定されている用語
用語 意味
AFFIRM / NEGATIVE はい/いいえ
ROGER 直前の送信をすべて受信した
WILCO 理解し、指示に従う
STANDBY こちらから呼ぶまで待て
SAY AGAIN もう一度言ってください
SPEAK SLOWER もっとゆっくり話してください
UNABLE 要求・指示に応じられない
CLEARED 指定条件のもとで進行を許可する
DISREGARD 直前の送信を無視してよい
CORRECTION 言い間違えたので言い直す

特に誤解が起きやすい3つの用語

ROGER と AFFIRM ROGERは「直前の送信を受信しました」であって、YesでもNoでもありません。質問に対する肯定にはAFFIRMを使います。

ROGER と WILCO WILCOは will comply の短縮で、「内容を理解し、従う」という意味です。指示に従う意思を示すならROGERでは不十分です。ただし、高度や滑走路の指定など復唱(readback)が求められる管制指示では、WILCOだけで済ませることはできません。

STANDBY 許可でも拒否でもなく、単に「待て」です。承認されたと誤解すると重大な結果につながります。

このほか、緊急時にはMAYDAY(重大かつ切迫した危険)とPAN PAN(急を要するが即時援助までは不要)を使い分けます。ICAOでは、無線で送信する際はいずれもできれば3回繰り返して発声するとされています。

聞き返し方にも型がある

聞き取れなかったときにSay againを繰り返すだけでは、通信量が増えて状況が悪化します。実際の現場では、聞き取れなかった箇所を指定する言い方が使われます。

Say again all after ◯◯

◯◯以降をもう一度言ってください

Speak slower

話す速度を落としてください

WORDS TWICE

各語または語群を2回ずつ送信してください

4. 航空業界で押さえておきたい英単語・略語

航空英語能力証明の受験者でなくても、業界に入るなら共通言語として知っておきたい語彙があります。業務の流れごとに整理すると覚えやすくなります。

機体と運航に関する語彙

機体と運航に関する英単語
英語 意味
aircraft 航空機
fuselage 胴体
cockpit / flight deck 操縦室
landing gear 降着装置(脚)
take-off / landing 離陸/着陸
taxiing 地上走行
altitude 高度
turbulence 乱気流
diversion 目的地変更

「操縦する」は文脈によって語が変わります。飛行機を操縦するなら fly や pilot、操縦装置を操作する動作には control が使われます。

空港・地上業務に関する語彙

空港・地上業務に関する英単語
英語 意味
boarding pass 搭乗券
aisle seat / window seat 通路側/窓側の席
checked baggage 預け入れ手荷物
carry-on baggage 機内持ち込み手荷物
connecting flight 乗り継ぎ便
pre-boarding 通常搭乗前の事前搭乗・優先搭乗
apron / ramp 駐機場
ground handling 地上支援業務

頻出する略語

航空業界で頻出する略語
略語 正式名称 意味
ICAO International Civil Aviation Organization 国際民間航空機関
ATC Air Traffic Control 航空交通管制
ETD / ETA Estimated Time of Departure / Arrival 出発/到着予定時刻
PAX passengers 旅客
LCC Low-Cost Carrier 格安航空会社
NOTAM NOTAM(ノータム) 飛行運用に重要な施設・手順・危険状態などを周知する通知

NOTAMは英語での展開形に表記の揺れがあり、実務では略語のまま使われます。

なお「航空」を表す英語は文脈で使い分けます。産業全体を指すなら aviation、航空運送を行う会社なら airline、航空機そのものは aircraft です。アビエーションという言葉が日本語でも使われるようになったのは、この aviation が語源です。

搭乗券や乗り継ぎといった語彙が旅客側でどう使われるかは、入国審査やチェックインの実際のやりとりを追ったこちらで確認できます。

略語を覚えたら、口に出す練習へ

英単語や略語は一覧で覚えられますが、無線や現場のやり取りで求められるのは、聞いた瞬間に意味を取って返す速さのほうです。

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5. 職種別に求められる英語レベルの目安

冒頭の早見表で示した水準について、どこから来た数字なのか、実際の業務でどう使うのかを職種ごとに見ていきます。

パイロット

国際運航を行うには、国家資格である航空英語能力証明のレベル4以上が必要です。国内線のみを飛ぶすべてのパイロットに一律で求められるものではなく、航空法施行規則が定める国際航行を行う場合に必要となります。

加えて、採用選考の段階でも一定の英語力が求められます。たとえばANAウイングスの2027年度入社・自社養成パイロット募集要項では、応募資格にTOEIC750点程度以上の英語力が挙げられています。同社の採用FAQでも、海外で訓練を実施することがあるためこの水準が必要で、能力は採用選考時に確認すると説明されています。

なお、海外の航空会社の機長採用ではICAOレベル5以上を条件とする例もあります。

航空管制官

管制官は国家公務員で、入口の航空管制官採用試験から英語が課されます。国土交通省航空保安大学校の案内によれば、第1次試験で外国語試験(多肢選択式)と外国語試験(聞き取り)が行われ、第2次試験では英会話を含む外国語試験(面接)が実施されます。

採用後は航空保安大学校で研修を受けます。管制官に求められる英語能力もICAOの語学能力要件に基づくレベル4以上ですが、パイロットが取得する「航空英語能力証明」とは制度上の枠組みが異なり、国土交通省の定めに沿った研修・評価によって担保されます。

客室乗務員(CA)

ANAウイングスの2027年度入社・客室乗務職掌(新卒)募集要項では、TOEIC600点、GTEC(LR)260点または同程度以上の英語力を有し、英語で円滑に意思疎通できることが望ましいとされています。ただし同要項では、点数に未達でも応募は可能と明記されています。

少なくともANAウイングスでは、このスコアは応募の足切りではなく、望ましい英語力の目安として示されています。実務では機内アナウンス、体調不良のお客様への対応、保安上の説明など、正確さが要求される場面が中心になります。

グランドスタッフ

応募条件にTOEIC500〜550点程度または英検2級程度を挙げている会社があり、これが一つの指標とされています。ただし基準は会社ごとに異なり、「望ましい」という表現にとどめている例もあります。

使う英語そのものは複雑ではありません。実際の現場では次のような表現が繰り返し登場します。

May I see your passport, please?

パスポートを拝見できますか

Would you like a window seat or an aisle seat?

窓側と通路側、どちらがよろしいですか

The flight has been cancelled due to bad weather.

悪天候のため欠航となりました

基本的な文法で対応できる場面も多く、難しいのは文法知識そのものではありません。欠航や乗り継ぎトラブルなど想定外の状況で、適切な表現をすぐに使えるかどうかが問われます。

航空整備士

整備士の業務では、機体メーカーが発行する英文の整備マニュアルを読む機会があります。会話力よりも、技術文書を正確に読む語彙力と読解力が優先されます。会話が不要という意味ではなく、優先順位が違うということです。

航空以外にも選択肢を広げて考えたい方は、求められる英語レベル別に職種を並べたこちらが参考になります。

6. 国家資格「航空英語能力証明」の仕組み

国際運航を行うパイロットを目指すなら、重要になるのがこの資格です。

レベル4以上が国際線に関わる最低基準

航空英語能力証明は、日本では国土交通省航空局が実施する国家資格です。ICAOの基準に沿って、英語運用能力を6段階で評価します。

航空英語能力証明のレベルと有効期間
レベル 名称 判定 有効期間
1 Pre-elementary 不合格 —
2 Elementary 不合格 —
3 Pre-operational 不合格 —
4 Operational 合格 3年
5 Extended 合格 6年
6 Expert 合格 無期限

国土交通省の実地試験実施基準では、レベル4(実用レベル)が無線電話通信に要求される最低の言語習熟レベルと位置づけられています。有効期間があるため、レベル4・5の保有者は、継続して対象の航行を行う場合、期限に応じて再評価を受けて更新する必要があります。

評価は6項目、1つでも足りなければ判定が下がる

評価は次の6項目で行われます。

  • 発音
  • 文構造
  • 語彙
  • 流暢さ
  • 理解力
  • 対応力

特徴的なのは、総合点ではなく最も低い項目が結果を左右する点です。5項目がレベル4を満たしていても、1項目がレベル3であれば全体としてレベル3と評価されます。得意分野で穴を埋められない仕組みになっています。

このうち「対応力」では、確認・聞き返し・言い換えなど、相手とのやり取りを適切に続ける力が評価されます。わかったふりをせずに聞き返す、言葉に詰まったら別の表現へ切り替える——双方向の練習を取り入れないと伸ばしにくい領域です。

7. 航空英語に関するよくある質問

Q. TOEICの点数が足りなくても航空業界に就職できますか。

A. 会社によります。たとえばANAウイングスの2027年度入社・客室乗務職掌(新卒)募集要項では、目安スコアに未達でも応募可能と明記されています。一方で、スコアを応募条件として設けている会社もあります。

Q. 航空英語能力証明とTOEICは何が違いますか。

A. 目的が別物です。TOEICは一般的な英語力をスコアで示す民間試験で、採用選考の指標として使われます。航空英語能力証明は国土交通省航空局が実施する国家資格で、学科試験と実地試験があり、実地試験では発音・文構造・語彙・流暢さ・理解力・対応力の6項目を評価してレベルを判定します。TOEICのスコアが高くても、この資格の対策は別に必要です。

Q. CAやグランドスタッフも管制用語を覚える必要がありますか。

A. 業務では基本的に使いません。ROGERやWILCOといった用語は、パイロットと管制官の無線交信で使われるものです。CAやグランドスタッフが押さえるべきなのは、ETD/ETA、PAX、connecting flight のように運航・地上業務で日常的に出てくる語彙のほうです。

8. まとめ

航空業界の英語は、まず「航空英語」という専門言語が存在することを押さえるところから始まります。

  • 航空無線では日常英語とは異なる標準化されたルールや定型表現が使われ、standardized phraseologyとplain languageを使い分ける。ROGERとWILCOのように意味が一つに固定される語もある
  • 国際運航の無線通信に従事するパイロット・航空管制官には、ICAOの定めるレベル4以上が最低基準(パイロットは国家資格「航空英語能力証明」で証明する)
  • CA・グランドスタッフは接客英語が中心でTOEIC500〜600点程度が募集要項の例、航空整備士は英文マニュアルの読解力が優先される

用語や制度の知識は独学でも積めますが、対応力を伸ばすには実際の会話を想定した双方向の練習が効果的です。志望職種の水準を確認したら、話す機会を確保するところから始めてみてください。

志望職種の水準がわかったら、話す機会をつくる

レベル4の評価項目にある対応力は、聞き返したり言い換えたりして相手とのやり取りを続ける力で、用語集を読むだけでは身につきません。

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